広告費を注ぎ込んでも新規客を一人呼ぶコストが上がり続け、費用対効果がどんどん薄れている。そう実感しているマーケティング担当者や経営者が、ファンマーケティングに目を向け始めています。

売上の8割を上位2割の顧客が担うとされるように、すでにいる熱量の高い顧客との関係を深める投資のほうが、広告費より先に回収できます。ファンマーケティングは、その考え方を体系化した取り組みです。

定義・手法・成功事例・始め方まで確認すれば、自社でファンマーケティングに取り組む判断材料がそろいます。イベント主催のように繰り返し顧客と接触できる業態では、チケット購入者をファンとして育てる設計が売上の安定に直結します。

目次
  1. ファンマーケティングとは
  2. ファンマーケティングの代表的な手法
  3. ファンマーケティングのメリット
  4. ファンマーケティングのデメリット
  5. ファンマーケティングが向いている企業の条件
  6. 企業のファンマーケティング成功事例
  7. ファンマーケティングを始めるための4ステップ
  8. ファンマーケティングを成功させるポイント
  9. まとめ:ファンマーケティングは「ファンの定義」から始まる

ファンマーケティングとは

新規顧客を呼び込む費用、いわゆるCPAは年々上がり続けています。広告で一人の新規客を呼び込むより、すでに自社を選んでくれている顧客との関係を深めるほうが、利益に直結する場面が増えてきました。ファンマーケティングは、一度きりの購入者を増やす販促施策ではありません。ブランドに深い愛着を持つファンを、長く付き合える資産として育てていく考え方です。

ファンマーケティングが注目される背景

きっかけは、広告費の重さ。

広告のCPAは1.5倍とも言われる水準まで膨らみ、新規客を取り続ける従来型の投資が中小企業の体力を削り始めました。一人を新たに連れてくるコストが上がるほど、すでに買ってくれた人にもう一度買ってもらう価値が相対的に高まります。新規客を呼び込むだけをひたすら追う動き方には、いまや罠という言葉さえ付いて回るほどです。

実際に、ファンマーケティングの土台にはパレートの法則という経験則があります。売上の8割は、上位2割の優良顧客が生み出すという考え方。だとすれば、その2割と長く深くつながる施策のほうが、薄く広い新規集客より効率がよくなる場面も出てきます。

もっとも、広告をやめてその予算をそのまま移せばいい、という単純な置き換えとは違います。より根本にあるのは、情報の流れそのものの変化です。テレビや雑誌が一方的に情報を届けていた時代から、消費者が自分で情報を取捨選択し、口コミやSNSの投稿が購買を左右する時代へと環境が移りました。

ファンマーケティングとファンベースマーケティングの違い

検索でよく並ぶこの2つの言葉は、向きが逆です。

ファンマーケティングは、熱量の高いファンを新しく増やしながら売上を伸ばしていく取り組みを指します。新しく好きになってくれる人をどう増やすか、に重心があります。

ところがファンベースマーケティングは、すでにいる既存ファンの声に耳を傾け、その意見をLTV向上や商品改善に反映して売上につなげていく考え方です。顧客の声を集めて経営や開発に反映させる役割が前に出ます。

前者がファンの数を外へ広げる動きなら、後者は今いるファンとの関係を内へ深める動き。どちらもファンを起点にしながら、力を入れる方向が違います。ファンベースマーケティングの仕組みは別の記事で詳しく扱っています。

ファンベースマーケティングとは?メリットやファンマーケティングの違いなど解説!

ファンマーケティングの代表的な手法

手法は点ではなく線でつなぐもの、というのがDNPの整理です。SNSキャンペーンで接点をつくり、会員限定メディアで関係を温め、ファンコミュニティへ流れ込む。一つひとつを単発で選ぶのではなく、ファンがどの順番で深く関わっていくかを描いてから手法を当てはめます。

ここでは代表的な手法の概要を順に並べます。SNSやアプリの細かい運用は、それぞれ専用記事に譲ります。

ファンミーティング・イベント開催

ヤッホーブルーイングは年末に〆宴(しめうたげ)という忘年会スタイルのイベントを開いています。醸造所まる見えツアーや冬ビールの楽しみ方講座といったコンテンツが並び、Web会議システムから遠方でも参加できます。普通の交流会と違うのは、ファンが客席に座って終わらない点にあります。

たとえば〆宴では、参加者がイベントの運営側やコンテンツ作りにも関わります。応援する側だった人が、一緒に場をつくる仲間に変わっていく。企業がもてなすだけの一方通行の催しとは、立ち位置がまるで違います。だからファンミーティングは、新商品の認知を広げる場というより、熱量の高い人を共創パートナーへ引き上げる場として効いてきます。

誰に来てほしいかを決めていなければ、どんな場を用意しても熱量は集まりません。

イベント運営でチケット販売から集客を設計する際は、販売方法の選択がファンとの接点の質に直結します。

イベントチケットの販売方法を比較!紙と電子の選び方も解説

ファンコミュニティの運営

森永製菓は公式のコミュニティサイトを運営しています。ファン同士が使える掲示板と、商品の開発ブログがあり、顧客が自分でコンテンツを投稿し、別の顧客がそこへコメントを返す。企業が一方的に情報を流す場ではなく、ファン同士が会話する場です。

もっとも、コミュニティの価値は交流の楽しさだけにとどまりません。掲示板に集まる生の声が、そのまま商品開発や改善の材料になります。アンケートでは出てこない不満や要望が、ファン同士の雑談のなかに転がっています。顧客のインサイトを直接聞ける場になるわけです。

一度つくれば自動で回るものではありません。投稿が生まれ続ける運用と、声を商品に反映する社内の動き。両方がそろわなければ、せっかくの掲示板も閑散としたまま終わります。

会員限定メディア・サブスクリプション

メルマガと会員制メディアで何が変わるか。読者が誰なのかが見えるようになる点が大きいです。ゴルフダイジェスト社は、紙の雑誌ビジネスをデジタルメディアへ転換し、DNPと組んで「Myゴルフダイジェスト」という会員制メディアを立ち上げました。発信するのは、商品の開発背景や中の人の想いなど、一般には表に出ない情報。

メルマガと大きく違うのは、読者が誰なのかが見える点。会員制にして行動データを分析すれば、これまで匿名だった読者を一人ひとりのファンとして可視化でき、「ここでしか知れない情報」が繰り返しの接点を生みます。こうした積み重ねが、匿名の読者をブランドの理解者へと変えてきました。

SNS・アプリでの双方向コミュニケーション

SNSとアプリは、ファンとの距離をいちばん縮めやすい接点です。

ただし各プラットフォームには特性があり、同じ投稿を全チャネルに流すだけでは届きません。フォロワーが多い=ファンが多い、でもない。数の裏には熱量の差があり、フォロワー数とファン数は別物として扱います。

SNS運用の戦略設計と炎上リスクへの対処は別記事で解説しています。

SNSを使ったファンマーケティングの戦略方法と炎上リスク対策

アプリを活用した手法と選び方の詳細はこちらで解説しています。

アプリを使用したファンマーケティングとは?ツールやサービス、アプリの選び方を紹介!

ファンマーケティングのメリット

Formula 1®はSalesforce製品を導入してファンとのやり取りを強化し、顧客満足度88%を達成しました。会場に来られない大多数のファンをどう満足させるかという課題から出てきた数字です。ファンマーケティングのリターンは、こうした安定した売上基盤に効いてきます。広告のように打った瞬間の数字には出にくく、効きどころが異なります。

LTVが向上し中長期の売上が安定する

顧客満足度88%という数字が、まず売上の土台を変えます。

Formula 1®の事例が示すのは、満足したファンが一度きりの購入者で終わらないという事業のかたちです。ファンは特定の商品やブランドに強い愛着を持ち、長く買い続けます。新商品や関連商品にも興味を向けるため、一人あたりの取引額が積み上がっていく。価格に左右されにくいので、安売り競争に巻き込まれても揺らぎにくくなります。

もっとも、この効果は月単位の売上では見えてきません。LTVという長期の指標で測ってはじめて、ファン一人が一般顧客より高い収益をもたらすとわかります。価格競争に巻き込まれにくいこと、アップセルやクロスセルの成功率が上がること。この積み上げが、新規の入れ替わりに頼らない安定した収入基盤になります。

口コミで新規顧客の獲得コストが下がる

ワークマンは、自社ブランドのファンで構成する公式アンバサダー制度を採用しています。

具体的には、アンバサダーにファッションアナリストやジャーナリスト、YouTuberなどが名を連ねています。実際に新製品発表会への参加やモニター体験といった恩恵を受けながら、商品の情報を自分の言葉で発信していきます。インフルエンサーへの依頼と違うのは、もともとブランドを好きな人が発信する点でしょう。

SNSを中心にUGCが形成され、ユーザーがさまざまな場所で同社の商品を目にする機会が生まれます。広告費をかけずに認知が広がり、新規顧客の入り口になる。広告のCPAが上がり続ける局面では、この差が事業の体力に直接効いてきます。

ファンの声が商品・サービス開発に活きる

スターバックスが立ち上げた「My Starbucks Idea」は、誰でも気軽にスターバックスへの意見を投稿できるコミュニティサイトです。ファンが自分から意見を寄せてくる場が成立すると、社内会議だけでは得られない質の声が集まってきます。

寄せられるのは前向きな提案ばかりではありません。課題や問題点を指摘する厳しい声も含まれます。それでも同社はその内容を真摯に受け止め、製品やサービス品質の改善に反映していきます。

アンケートを設計して回収する手間をかけずとも、ファンの側から本音が集まってくる。この質と量の声は、社内会議だけでは集まりません。

コアファンが新規ファンを引き寄せる

コアファンが増えるほど、広告費に頼らない口コミの層が厚くなります。

ヤッホーブルーイングのファンは、イベントを重ねるうちに「応援する側」から「共創する仲間」へと立ち位置を変えていきました。企業が広告費を投じなくても、熱心なファンによる紹介や口コミが広がり続けるコミュニティができあがります。ファンの推薦は、まだブランドを知らない顧客層に届く入り口になる。その先で新しいファンが呼び込まれていく流れは、広告では買えません。

ファンマーケティングのデメリット

ファンを持つことは、応え続けなければならない期待を持つことでもあります。

既存ファンの声に偏ると新規層を見失う

ファンの声は、いちばん近くで聞こえます。だからこそ、その声だけに耳を傾けると視野が狭まる。

既存ファンの嗜好に過度に依存すると、革新的なアイデアを見落とすリスクが出てきます。コミュニティが心地よくまとまるほど、市場全体のニーズからはずれていく。ファンが求める改善と、まだファンになっていない層が求めるものは、しばしば方向が違います。

ところが運用の現場では、反応の早い既存ファンの声が判断材料の大半を占めます。保守的になりすぎると、新規層に届くはずだった打ち手が後回しになります。

ファン化に数ヶ月〜年単位の時間がかかる

ファン化は、すぐには起きません。

たとえば、ある国内のビールメーカ子会社のコミュニティサイトは、2017年2月の設立から2018年5月末までかけて、メンバー1,000人を突破しました。前年末と比べて約2倍です。およそ1年3ヶ月をかけた数字でした。

ブランドの歴史や想いを丁寧に伝えるには、数ヶ月から数年の時間がかかります。そのため短期の売上目標と、中長期のエンゲージメント指標は、最初から分けて設定します。両者を同じ物差しで追うと、まだ芽が出ていない時期に「成果なし」と結論づけてしまう。半年で判断を下した施策が、本来は2年目から伸びるはずだったケースも出てきます。

ROIを売上だけで評価すると判断を誤る

コミュニティが盛り上がっていても、翌月の売上は別の動きをします。熱量と購買は連動しません。

そのためROIを売上だけで握ると、判断を誤ります。売上指標と感情指標は分けて管理しないと、KPIがずれていきます。感情側の指標には、コミュニティのMAU、UGCの月間投稿数、ファンイベントの参加率と満足度といった数字が並びます。もっとも、これらは売上の月次だけを見ていると拾えません。

炎上時にコミュニティが揺れる

ファンの期待値が高いほど、一度のミスが大きな失望に変わります。普通の顧客なら見逃す対応も、ファンには裏切りとして届く。

しかも、コミュニティはオープンな場です。発信した内容はファン同士で共有され、好意も不満も増幅されながら広がっていく。とはいえ、これを恐れて発信を絞ると、今度はコミュニティの熱が冷めます。

期待を背負う関係である以上、揺れるリスクはゼロにできません。揺れたとき早く立て直せる企業に共通するのは、誰に向けて何を約束するかを着手前に決めていることです。

イベント集客でも、申込者が想定を下回ったときの立て直し方を知っておくと、ファンとの関係を損なわずに動けます。

イベントのチケットが売れないときに見直すべきことは?原因別の対策を解説

ファンマーケティングが向いている企業の条件

ファンマーケティングは、どの企業でも同じ成果が出る施策ではありません。自社の事業構造のなかで成立する条件があり、リピート購入や継続利用が成り立つ事業かで、導入の可否は大きく分かれます。

リピート購入・継続利用が成立する商材を扱う

向き不向きを最初に分けるのは、商材の性質。

ファンマーケティングの軸足は、一度でも商品やサービスを購入した既存顧客にあります。その既存顧客と長く関係を続けながら、LTVを引き上げていくのが本来の狙いです。だから、買ったあとも繰り返し接点が生まれる商材ほど、施策は回りやすい。飲料・食品・化粧品・サブスク型サービスのように、月単位・年単位で再購入が起きる事業がここに当たります。

ところが、リピート性が低い商材では事情が変わります。住宅や自動車のように、一人の顧客が一生に数回しか買わない耐久財だと、関係を深めても次の購買までの間隔が空きすぎる。愛着を育てた頃には、もう買い替えのタイミングを過ぎたあとです。こうした商材はファンマーケティングだけで売上を作るのが難しく、別の役割を担わせる設計になります。

ブランドの世界観・理念を言語化できている

ファンが共感するのは、商品のスペックそのものではなく、その裏にある考え方です。

たとえばアニメーション制作会社のMAPPAは、『この世界の片隅に』を世に出すためにクラウドファンディングで支援を募りました。プロデュース会社のジェンコや映画監督の片渕氏の協力のもと、プロジェクトページに制作過程の詳細と、作品に込めた熱い想いを並べていきます。まだ作品が完成していない段階で、その内容に共感した有志から大きな支援が集まりました。

人を動かしたのは、完成品ではなく言葉でした。自社が何を大切にしているのか・なぜこの商品を作るのかを言葉にできている企業ほど、ファンは集まりやすい。逆に、世界観を社内でも言葉にできていない状態でコミュニティだけ立ち上げても、共感の対象が見つからず人は定着しません。

3年以上の中長期視点で投資判断ができる

自社は3年スパンで投資判断ができる体制でしょうか。ここが向き不向きを最後に分けます。

ファン化には数ヶ月から年単位の時間がかかります。ブランドの歴史や想いを丁寧に伝えながら、少しずつ熱量を育てていく作業だからです。

ところが多くの企業の予算評価は四半期で回ります。3ヶ月ごとに数字を問われる枠組みのなかにファンマーケティングを置くと、まだ芽が出ていない時期に「成果なし」と判断が下ります。

1年目は土台づくり、2年目に手応えが出て、3年目から効いてくる。そういう時間の流れを経営層と共有できているかが、最初の分かれ目になります。短期の売上目標とは別に、中長期のエンゲージメント指標を持てるか。ここが、続けられる企業と止まる企業を分けます。

最後に、向いていない事業構造もはっきりさせておきます。リピート性が低く、客単価が大きく、購買頻度が年1回以下の商材では、ファンマーケティングだけで売上を作るのは難しい。住宅・自動車・耐久財がここに当たります。

こうした事業でファンマーケティングを生かすなら、広告施策と並走させる前提でしか回りません。リピート性・世界観・時間軸の3つがそろう企業ほど、投じた予算が利益として返ってきやすい。

企業のファンマーケティング成功事例

ここで取り上げる5社は、規模も業種もばらばらです。共通するのは、施策を打つより先に「自社にとってのファンは誰か」を決めていたこと。イベントを開いたから成功したのでも、コミュニティを作ったから成功したのでもありません。

ヤッホーブルーイング「〆宴」

よなよなエールで知られるクラフトビールメーカーのヤッホーブルーイングは、大手メーカーほど広告予算をかけられません。それでもファンマーケティングを経営の中心に据え、独自のブランドを築いてきました。テレビCMで認知を取りに行く戦い方を選ばなかった会社です。

代表的な施策が、忘年会の感覚で参加できるファンイベント「〆宴(しめうたげ)」です。たとえば醸造所をまる見えにするツアー、冬こそおいしいビールの楽しみ方といったコンテンツが用意され、Web会議システムを使えば遠方からでも参加できます。

ミーティングの最中には大抽選会まで開かれます。ここで効いているのは、ファンを客席に置いていない点です。運営やコンテンツ作りにもファンが関わる仕組みが組み込まれていて、応援する側だった人が、いつのまにか一緒に場を作る仲間へ変わっていきます。

そのため広告に大金を投じるのではなく、誰と深くつながるかを先に決めました。予算が限られた中小企業でも、やり方をなぞれる事例になっています。

スターバックス「My Starbucks Idea」

公開からわずか2ヶ月で、寄せられたアイデアは4万件を超えました。スターバックスが立ち上げた顧客参加型のコミュニティサイト、My Starbucks Ideaに集まった声です。誰でも気軽にスターバックスへの提案を投稿できる仕組みで、ファンが日頃感じている改善案が、そのまま運営側に届く設計になっていました。

集まったのは前向きな提案だけではありません。課題や問題点を指摘する厳しい声も少なくありませんでした。それでもスターバックスは内容を真摯に受け止め、製品やサービスの改善に反映していきます。

ここでのファンは、満足してくれる相手ではなく、一緒に商品を良くする相手として位置づけられていました。声を集める箱を作っただけでは、2ヶ月で4万件は集まりません。集めた声を本当に商品へ反映する前提があり、その手応えがファンの投稿を後押ししていました。

MAPPAのクラウドファンディング

アニメーション制作会社のMAPPAは、映画を公開する前に約3,900万円を集めました。「この世界の片隅に」を世に出すため、プロデュース会社のジェンコや映画監督の片渕氏とともにクラウドファンディングで支援を募った結果です。作品が完成して評価される前の段階で、資金を出すファンがこれだけいたことになります。

注目したいのは、プロジェクトページの作り方です。完成イメージを並べて期待を煽るのではなく、制作過程の詳細や作品にかける想いを丁寧に載せていきました。

たとえば、なぜこの作品を作るのか、どんな苦労があるのか。その内容に共感した有志が、まだ存在しない作品に先払いしました。MAPPAにとってのファンは、できあがった作品を買う客ではなく、作る過程に立ち会いたい人でした。

ワークマンの公式アンバサダー制度

作業服や安全靴を扱うワークマンは、自社ブランドのファンで構成される公式アンバサダー制度を運営しています。アンバサダーに名を連ねるのは、ファッションアナリストやジャーナリスト、YouTuberなどさまざま。新製品発表会への参加やモニター体験といった恩恵を受けながら、自分の言葉で商品を紹介していきます。

この制度から生まれるのが、SNS上の口コミ投稿です。アンバサダーの発信をきっかけにユーザー自身が投稿を重ね、街でも画面でもワークマンの商品を見かける機会が増えていきます。そこで認知が広がり、広告費をかけずに新規顧客が増えています。会社が選んだのは、お金で枠を買う宣伝ではなく、商品を語りたくなる人を見つけて任せる方法でした。

Formula 1®のファン向けデジタル施策

レースを現地で観戦できる人は、ファン全体のわずか1%。Formula 1®がデジタル施策を設計するとき、起点にしたのは残り99%をどう満足させるかという問いでした。Netflixの番組をきっかけに米国でテレビ視聴者が増え、若いファン層が一気に流入していた時期にあたります。会場に来られない大多数こそ自分たちのファンだと、はっきり線を引いていました。

そこで導入したのが、Salesforceの製品を使ったファン向けのデジタル基盤でした。一人ひとりに合わせたパーソナライズ対応、自分で問題を報告できるコミュニティページ、自動チャットボット。ファンが自力で疑問を解決できるようになり、サービス担当者は難しい問い合わせに集中できます。

現地に行けないファンを後回しにしていたら、この投資判断は出てこなかったでしょう。誰を中心に据えるかが、使う技術まで決めていきました。

ファンマーケティングを始めるための4ステップ

自社にとってのファンを定義する前に、SNSキャンペーンやコミュニティの立ち上げから手をつけてしまう。そんな企業ほど、後の施策がすべて空回りし、投じた予算だけが消えていきます。順番には理由があります。

ファンの定義・KGIとKPIの設計・施策の実行・効果測定。この4つを入れ替えずに進めると、一つひとつが次の土台になっていきます。

ステップ1:自社にとってのファンを定義する

最初に決めるのは、自社にとってのファンが誰なのか。ここを曖昧にしたまま施策に進むと、SNSのフォロワー数だけが増えて中身が伴わない状態になります。

定義は感覚ではなく、データで線を引きます。定量の物差しなら、年間購入金額や購入頻度が上位20%以内に入る顧客、特定の商品を3回以上リピート購入する顧客、NPS®で推奨者にあたる9〜10点を付けた顧客。定性の物差しなら、アンケートの自由記述欄に応援メッセージを書き込む顧客、イベントやキャンペーンに積極的に参加する顧客。この両面で基準を持つと、誰がファンで誰がそうでないかが客観的に分かれます。

ところが、ここで混同しやすいのがファンとヘビーユーザーの違いです。よく行く店に置いてあるから、価格がリーズナブルだから、という理由で買い続ける顧客は、購入回数こそ多くてもファンとは限りません。ファンになるには、その商品やブランドと出会ったきっかけと、関係を積み重ねてきた歴史が要ります。

リピート購入の数字だけを追うと、この差は見えません。ステップ1の精度が、残り3ステップの成否をそのまま決めます。

ステップ2:KGI・KPIを売上以外でも設計する

次に、何を実現したいのかという最終ゴールと、その達成度を測る中間指標を設定します。最終ゴールの例は、ファンのLTVを1年間で15%向上させる、ファン経由の新規顧客を半年間で50件増やす、といった数字。中間指標の例は、ファンコミュニティの月間アクティブユーザー数、ファンによるUGCの月間投稿数、ファンイベントの参加率と満足度アンケートの平均スコアです。

ここで売上だけを指標に据えると、施策が壁にぶつかります。ファン化は数ヶ月から年単位で進むため、初期は売上の数字が動きません。すると、まだ芽が出ていない時期に「効果なし」と判断され、投資が止まります。

だから、売上に直結しないコミュニティの活性度やUGCの量を中間指標として握っておく。手応えが数字で見える状態をつくっておけば、まだ売上が動かない時期も投資を続けられます。

ステップ3:熱量を高める施策を1つに絞って始める

施策は、定義したファン像と中間指標に沿って計画します。代表的な打ち手は、クローズドなオンラインコミュニティの運営、ファンミーティングの開催、アンバサダープログラムの実施。どれも、企業からの一方的な情報発信ではなく、ファンが「特別扱いされている」「参加していて楽しい」と感じられる双方向のやりとりが前提になります。

もっとも、中小企業の場合は最初から複数の施策を同時に回そうとしないことです。月10万円以下の予算で1つの施策に絞り、成果を確かめながら広げていく進め方なら、限られたリソースでも回ります。最初に欲張ると、どの施策が効いたのかが見えないまま予算だけが分散します。

ステップ4:効果を測定し対話を通じて改善する

施策は実行して終わりではありません。設定した中間指標が達成できているかを定期的に測り、ファンへのアンケートやヒアリングも交えながら改善を重ねます。コミュニティ分析ツールでどのコンテンツが響いているかを見る、施策後に満足度アンケートを実施してフリーコメントから改善のヒントを拾う、ファン数名とのオンライン座談会を開いて生の声を直接聞く、といった手段があります。

ここで効いてくるのが、ステップ1で引いた定義とステップ2で握った中間指標です。誰をファンと定めたのかが決まっていれば、誰に何を聞けばいいかが定まります。測って、聞いて、直す。この往復が回り始めたとき、ファンマーケティングはようやく運用に乗ります。

ファンマーケティングを成功させるポイント

4ステップに沿って動き出した企業がつまずくのは、施策の中身よりも運用の続け方です。ここでは、走り始めてから効いてくる運用の観点を、世界観・交流の場・時間軸の3点に絞って取り上げます。

独自の世界観を明確に打ち出す

世界観が社内で言語化されているかで、発信の一貫性が変わります。

自社の商品やサービスが持つ価値を一度きちんと定義し、それをぶれずに伝え続けることが、共感を育てていきます。ここがそろえば、競合との違いがはっきりします。ところが、世界観が社内でも言葉になっていないまま発信を重ねると、メッセージが場面ごとに揺れ、ファンは何に共感していいのか分からなくなります。

たとえば、商品の背景にある開発ストーリーや、その事業を続ける理念が打ち出す材料になります。なぜこの商品を作るのか、何を変えたいのか。そうした言葉が一貫して届いているブランドほど、ファンは深く共感し、強い愛着を寄せます。ここを曖昧にしたまま施策だけ重ねても、共感の核がないため熱量は積み上がりません。

ファン同士が交流できる場を用意する

熱量を増やすうえで見落とされやすいのが、横の繋がりです。

実際に、企業とファンという縦の繋がりだけでなく、ファン同士が結びつく場を用意することが効いてきます。たとえばヤッホーブルーイングは、「〆宴」で参加者を運営側にまで巻き込みました。共通の価値観を持つ人が集まり、商品の使い方や愛着を語り合う場があると、ブランドを中心にした強いコミュニティが育っていく。これは、企業が用意した縦の関係を、ファン同士の横の関係に開いていく設計です。

ファン同士の交流が生まれると、熱量は互いに伝わり合って増幅します。誰かが見つけた新しい楽しみ方が場で共有され、それを受け取った別のファンの愛着がさらに深まる。企業が一方的に発信するだけでは届かない厚みが、ここで生まれます。

短期成果ではなく中長期で判断する

最後に効いてくるのが、成果をどの時間軸で見るかという握りです。

ファンマーケティングは、目先の数字だけで評価すると判断を誤ります。ファン化には数ヶ月から年単位の時間がかかり、四半期ごとの売上だけを物差しにすると、芽が出る前に「効果なし」と投資が止まります。

そのため、短期の売上目標とは別に、中長期のエンゲージメント指標を立てておきます。LTV向上を見据えた未来への投資として腰を据えられるか。続けられる企業とそうでない企業は、この時間軸の合意があるかで分かれます。

まとめ:ファンマーケティングは「ファンの定義」から始まる

新規客を一人連れてくるコストは上がり続けています。広告に同じ予算を投じても、以前ほど新規が積み上がらない。だからこそ、すでに自社を選んでくれた顧客との関係を深めるファンマーケティングに、いま改めて目が向いています。

ただし、ここで多くの企業がつまずきます。施策やツールを先に選んでしまうからです。

成否を分けるのは、施策の派手さではありません。自社にとってのファンを誰と定義するか。その一文をどこまで解像度高く書けるかで、その後の打ち手はすべて変わります。

よく買ってくれるヘビーユーザーと、ブランドに愛着を持つファンは違います。ここを区別しないまま、SNSのフォロワー数だけを追っても中身は空転します。

そのため、定義の次に握るべきはKPIの設計です。ファンの熱量は、必ずしも目先の売上には直結しません。売上だけを物差しにすると、芽が出る前に投資が止まります。

コミュニティの動きやLTVといった、売上の手前で動く指標を持ち、3年単位で投資を判断できるか。リピート性のある商材を扱い、自社の世界観を言葉にできている企業ほど、この時間軸で投じた予算が利益として返ってきます。

ファンマーケティングは、3年単位で利益率を底上げしていく経営判断です。広告のように短期で売上を作る施策とは、時間軸も評価のものさしも違います。最初の一歩は、新しいツールの導入ではなく、「自社にとってのファンとは誰か」を社内で言葉にしていくことです。

チケミーでは、イベントやチケットを起点にしたファンとの接点づくりを支援しています。自社のファンをどう定義し、どんな場で関係を深めていくか。その設計から相談したい場合は、資料請求・お問い合わせからお気軽にご連絡ください。