推し活コラボを検討している担当者が最初に直面するのは、どこから企画を組み立てればいいかという問いです。市場の大きさは知っていても、成果が出る企画と炎上する企画の違いが見えないまま着手すると、ファンの反感を買うリスクがあります。

推し活市場は近年急速に拡大しており、コラボ施策を組める規模に達しています。ただし、市場規模に引き寄せられて推しを脇役にした施策を組むと、売上を出す前にファンが離れます。

この記事を読むと、推しを主役に置いた企画の設計判断と、実在する企業4社の施策で何が成否を分けたかが把握できます。コラボ企画の稟議・立案に向けて判断材料にしてください。

推し活マーケティングとは?企業が注目する理由

通常の購買では、自分が欲しいから買います。推し消費では、推しが関係する商品を買うこと自体が応援になると考えて買います。

買う動機の起点が自分のためから推しのためへ反転している点が、この市場の出発点です。

通常の購買と違い「応援になるから買う」

通常の購買は、自分が欲しいから買うという動機で成り立っています。推し消費はその前提に乗らない構図です。

推しが関係する商品を買えば応援になる、という発想で財布を開きます。

同じ商品でも買う理由が自分のためから推しのために置き換わる。機能・価格・利便性で比較する従来の購買フローは、推し消費の場面では後ろに下がります。

推しの対象は、アイドルやアニメキャラにとどまっていません。スポーツ選手、YouTuber、Vチューバーといった人物だけでなく、日常使いの美容品やサービスにも広がる流れ。

ローソンとなにわ男子、森永製菓のダースとあんさんぶるスターズなど、コンビニや菓子といった日用カテゴリでもコラボが成立しているのが現状です。

事実、自社の商品がどんなカテゴリでも、推しの文脈に接続できれば購買動機の対象になり得ます。

市場規模は3兆5,000億円を超える

推し活市場の規模は約3兆5,000億円。市場を支える推し活人口は1,384万人、一人あたりの年間平均支出は25万円を超える水準です。

実際に、周辺市場の伸びも数字に表れています。一般社団法人コンサートプロモーターズ協会の集計によると、ライブ総売上は2024年に約6,122億円となり、コロナ前の2019年から67%増。

事実、EC側の数字も連動しています。株式会社Nintの調べによると、推し活関連商品のEC市場規模は2019年からの5年間で約4.86倍に拡大しました。

リアルのイベントとオンラインの物販が同時に伸びている領域は、近年の消費市場ではそう多くありません。

コラボで企業への好感が生まれる

推しとのコラボをきっかけに、企業やブランドに好感を持った人は79.2%。通常の広告で約8割の好感を引き出せるケースはほとんどない数字です。

ただし、好感が生まれるのはコラボの内容が推しの文脈と噛み合っている場合に限られます。商品名にキャラを印刷しただけ、起用しただけのコラボは、ファンに見抜かれて逆効果になりかねません。

コラボの設計次第で、79.2%の好感が生まれる側にも、反感を買う側にも振れる結果。

ファンマーケティング全体の仕組みや他業界での活用事例は別記事で解説しています。

ファンマーケティングとは?メリットやデメリット、有効なツール、どのような企業に向いているのか解説!

ファンが動く推し活の消費心理

ファンが財布を開く動機は、自分が欲しいからではありません。推しを応援したい、推しの活動に貢献したいという気持ちが先にあり、その結果として商品やイベントへの支出がかさんでいきます。

ファンの本気度は、対象者の広がりと支出の集中度の両面で確かめられます。施策を組む前提として、誰がどんな金額感で動いているのかを掴んでおく必要があります。

推しがいる人は2人に1人という広がり

ジェイアール東日本企画が15〜69歳男女19,202人を対象に行った調査によると、推しがいる人は51.3%にのぼります。2人に1人は何らかの推す対象を持っている計算で、推し活経験者は約40%。たとえば若い世代では割合がさらに高く、女性15〜29歳で推しがいる人は約7割に達します。最も少ない女性60代でも41%で、世代を問わずに広がっている数字です。

推し活経験者の活動内容で最多は映像鑑賞の57.5%、次いでコンサートや舞台などリアルイベントへの参加が47.1%。日常の視聴行動から現場参加までが地続きで、特定ジャンルのファンに閉じた現象とは言えません。

可処分所得の4割近くを推しに使う層

推し活を楽しむ人は、可処分所得の約37.4%を推し活支出に充てています。手取りの4割近くが推しに向かう計算で、生活費の延長というより支出設計の中心に置いている層が存在する数字です。

支出が発生するカテゴリは、コンサートや遠征の交通費、公式グッズの購入、オンライン配信の視聴と複数にまたがります。たとえば現場参加で交通費と宿泊費がかかり、グッズと配信は別予算で動くという重ね方。過去1年では全カテゴリの8割以上の人が支出を増やしました。

もっとも、月3,000円未満が54.8%のボリュームゾーンで、生活費やお小遣いの範囲で楽しむ層が半数を超えます。月10万円以上を投じるヘビー層は1.8%にとどまり、この層が推し活市場の経済規模を支えています。

支出のばらつきは、施策設計で接し方を分ける根拠になる数字。ライト層には参加のハードルを下げた入口を、ヘビー層には熱量に応じた限定の場を用意するという、層ごとに別の動線を組む発想が必要でしょう。

SNSの投稿が次のファンを連れてくる

なぜファンの投稿が次のファンを連れてくるのか。同じ調査によると、推し活を通じた友人・知人がいる人は40.5%。推し活は1人で完結する活動ではなく、SNSやリアルでファン同士がつながる構造を持っています。

現に、グッズを買った、イベントに行ったという投稿が口コミとして拡散し、フォロワーへ広がっていく流れ。投稿が広告の代わりに動き、参加していない人の目にも推しの存在が届きます。SNS上の同時体験は消費意欲を刺激するきっかけとなり、次の購買へつながっていくでしょう。

企業がこの構造を施策として組むには、ファンが投稿したくなる体験を設計の起点に置く必要があります。SNS運用の方法や炎上リスク対策については別記事で解説しています。

SNSを使ったファンマーケティングの戦略方法・炎上リスク対策

推し活マーケティングの成功事例

推しメンバーのハッシュタグを付けてツイートすると、その推しとLINE通話している気分を味わえる動画が返信される。携帯ブランドのキャンペーンは、ファンが推しと擬似的に交流できる体験を企画の真ん中に置いています。

推しキャラごとに個性を落とし込んだ商品や、推しの登場時間を分刻みで知らせる店内放送もあります。どの事例も、ファンが参加したくなる体験を企画の中心に置き、商品の宣伝はその後ろに配置しています。

LINEMO×VOYZBOYの通話体験キャンペーン

ソフトバンクの携帯ブランドLINEMOと人気グループVOYZBOYのTwitterキャンペーンで、ファンに求められたのは推しのハッシュタグを付けて投稿することだけ。応募の手間が軽く、ファンが気軽に参加できる設計でした。

返信される動画は、推し本人から電話がかかってきたような演出になっています。そのため、受け取ったファンは擬似的な交流体験として動画を楽しみ、その投稿がまた拡散していきます。ハッシュタグ付きの投稿が増えるほど、参加していない人の目にも届きました。

実際に効いたのは、商品を売り込まず、推しとの会話という体験を入口にした点です。企業側が狙う携帯ブランドの認知は、ファンが推しと過ごす時間の後ろにある。ファンにとっては推しと話せる時間が主役で、ブランドはその時間を用意した相手として後から記憶に残ります。

同じSNSキャンペーンでも、抽選で景品を配るだけの企画なら、ハッシュタグはここまで伸びません。推しと話せる動画を返すという一点が、ファンの参加意欲とLINEMOの認知度を同時に押し上げました。

ロクシタン×おそ松さんのキャラ別ハンドクリーム

フランス発の化粧品ブランドであるロクシタンは、人気アニメおそ松さんとのコラボで、6つ子それぞれのキャラクター個性に合わせたデザインの商品を展開しました。商品名やパッケージを変えただけのコラボとは、設計の出発点が違います。

ロクシタンの定番品は、香りや成分で選ぶ既存の愛用者に向けた商品です。一方おそ松さんコラボの商品は、推しキャラで選ぶ商品。同じ手元に置くケアアイテムでも、買う理由がまるで違います。キャラの個性をデザインに落とし込んだ結果、どの一本を選ぶかが、そのまま推しの表明になる仕掛けです。

普段化粧品に興味がなかったアニメファンが自分の推しキャラに合わせた一本を選び、ハッシュタグを付けてSNSで紹介していきます。化粧品売り場では届かなかった層を動かしたのは、商品の機能ではなく推しキャラそのものでした。

ユニクロ×ポケモンのアパレル展開

ユニクロは世界的に人気のあるポケモンとコラボし、Tシャツやパーカーなどのアパレルを展開しました。世代を超えて愛されるキャラクターとの組み合わせは、それだけで話題になります。

ラインナップで効いたのは、誰もが知る人気ポケモンだけで揃えなかった点です。マニアックなポケモンまで幅広くデザインに取り入れ、コアファンが自分だけの推しポケモンを見つけられる作りにしています。

定番キャラで間口を広げつつ、コアファンの目当ても置く。誰もが自分の推しを選べる幅が、特別感を生みました。

しかも高品質な商品をリーズナブルな価格で手に取れるため、お気に入りの一着だけでなく複数をまとめて買うファンも出てきます。

ローソン×なにわ男子の分刻み店内放送

ローソンのウチカフェシリーズがなにわ男子と組んだコラボで目を引いたのは、店内放送イベントの運び方でした。メンバーごとの出演スケジュールを、分刻みで公開しています。どのメンバーの声がいつ流れるかが事前に分かる形です。

そのため、ファンは推しの登場時間に合わせて来店でき、いつ流れるか分からないまま店内で待つストレスがありません。推しの声を確実に聞ける時間が分かるだけで、来店そのものが目的になります。

CMにはなにわ男子と俳優の松山ケンイチも起用し、双方のファンを店頭へ呼び込みました。コラボの中身そのものより、推しの声をいつ聞けるかという運用の細やかさが、ファンの来店体験を左右しています。

推し活マーケティングで炎上を避ける企画設計のコツ

商品やサービスを前面に出して推しを脇役のようにすると、反感を買うケースがあります。ファンイベントの席数を意図的に少なくして購買を煽る運び方や、推しのイメージにそぐわない商品に無理やり名前を冠する企画がその典型です。

ここでは、炎上に至った企画に共通して見えるパターンを三つ取り上げます。

推しを脇役にすると反感を買う

ファンが見ているのは推しであって、商品ではありません。商品やサービスを前面に押し出し、推しを宣伝の付け合わせのように扱った瞬間、企画はファンの応援対象から外れます。

具体的には、ファンイベントの席数を意図的に少なくして購買を煽る運び方だと、応援のつもりで払ったお金が企業の在庫処分や販促ノルマに吸われていくように見えます。推しのイメージにそぐわない商品に無理やり名前を冠する企画も、推しが企画の道具として使われた印象を与えます。そう読み取られた時点で、ファンは離れていきます。

企業側からはこの境界線がなかなか見えません。社内では推しの力を借りて売上を作る企画と説明され、推しは販促フックとして扱われがちです。ファンが見ているのは、そこではありません。

企画書をファン目線で読み返したとき、一行目の主語が商品になっていないかが確認点です。推しが動く企画なのか、商品の引き立て役として推しが置かれているだけなのか。この差が企画の設計上の分岐になります。

推しと商品に関連性がないと共感されない

既存の商品にただキャラクターを印刷しただけのもの、名称を変更しただけのコラボ商品は、ファンからの共感を呼びづらい設計です。商品の中身に推しの何かが落とし込まれていないため、推しの存在が商品の表面に乗っているだけになります。

一方、香り・動き・時間設計のどれかに推しを反映させた商品は、その一本は推しのために設計されたとファンが読み取れます。買う理由が機能ではなく、推しの表明に切り替わる仕掛けです。

ところが既存品にロゴを足しただけの企画では、商品本体は何ひとつ推しと結びついていません。ファンは、在庫を捌くために推しが使われたと判断します。

商品と推しの間に、香り・色・動き・時間・物語のどれかが通っていない限り、コラボの中身はファンに届きません。

限定や希少性は使いすぎると搾取になる

限定・希少性の設計は本当にエンゲージメントを高めるのでしょうか。答えは、使いすぎなければ高めます。

数量限定グッズ、先行販売、コミュニティメンバーだけの体験。これらはファンにとっての特別感の源泉です。コミュニティメンバーへの先行案内や、年に数回だけ発売される記念商品。どれも、推しと自分の距離が縮まる体験として歓迎されます。

しかし同じ手法を毎月くり返し、在庫の絞り方が露骨になると、企画は急に搾取の顔へ転びます。発売直後に転売価格が定価の数倍に跳ね上がる仕組みを企業が放置していれば、熱狂を利用されているとファンが感じた瞬間に離反へつながる構図です。

もっとも、搾取と感じさせない境界線は数値化できません。何回までなら適正で、何個までなら適量か。ファンの反応を見ながら調整するしかなく、どこからが過剰かを事前に線引きする万能の基準はありません。

「どう売るか」より「どう関わってもらうか」を先に決める

これまでのマーケティングはどう売るかを考えてきました。推し活が示しているのは、どう関わってもらうかという問い。順番が逆になります。

実際に、売上予測から逆算してキャンペーンを設計するやり方では、推しは販促フックの位置に固定されます。ファンとの関わり方を先に決めて、その体験から自然に購買が生まれる順番に組み直さない限り、推しは主役に戻りません。

企画の起点で固める論点は、どんなコラボ商品を作るかではなく、ファンが推しとどんな時間を過ごせるか。商品設計・販路・KPIはそのあとに並びます。グッズの色や数量、SNSキャンペーンの設計は、関わり方の輪郭が決まったあとに細部を埋めていく順番です。

順番を入れ替えないまま予算と時間を投じても、推しを脇役にした企画は売上を作る前にファンを失います。

推しを主役に置いた広告出稿の手法や費用感については、推し活広告の専門記事で解説しています。

推し活広告とは?種類や相場、ファンやその他の人々への影響、成功事例など解説!

推し活グッズやチケットの販売はチケミーで設計できる

グッズやイベントチケットがリセール・2次流通した際に売買額の一部が主催者側に還元される仕組みは、プレイガイドやECサイトに標準では備わっていません。ファンの間で繰り返し流通する販路を持っているのに、その熱量から主催者側にお金が戻る経路がない。推しを主役に据えた企画を組むなら、ここを補える販売基盤が必要になります。

チケミーはブロックチェーン技術を活用したNFTチケットプラットフォームです。この仕組みを備えており、ファンの間で価値が動くたびに、主催者への収益が発生する構造です。

そして特定のイベントチケットやグッズのNFTを保有している人に向けて、限定チケットやグッズを販売できる設計も用意されています。前作のチケットを買ったファンにだけ次回の先行販売を開く、過去グッズの保有者にだけ限定アイテムを案内するといった、推しとの関係の長さを起点にした販売が組める形です。劇団のVIP・eスポーツ・コンサートなどに導入実績があります。

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推し活マーケティングのよくある質問

推し活マーケティングは予算が少なくても始められますか

まず、ハッシュタグキャンペーンや限定コラボグッズの小ロット販売など、初期費用を抑えた施策から着手することは可能です。

もっとも、IPとの版権交渉・ライセンス料・制作費は必ず発生します。最低限の予算設計と費用回収シミュレーションを事前に行ってから着手してください。

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コラボする推し(IP)はどう選べばいいですか

自社のターゲット層と、そのIPを支持している層の重なりが最初の判断基準になります。

年齢帯・購買行動・価値観の一致度が低いと、コラボの話題性は出ても購買や問い合わせが伸びないため、候補IPごとにファン属性データを取得してから絞り込む手順が有効です。

推し活マーケティングの成果はどう測定すればいいですか

施策の種類によって測定指標は変わります。ハッシュタグキャンペーンであれば投稿数・リーチ数、グッズ販売であれば販売点数・リピート購入率が主指標になります。

認知から購買までの各段階を分けて指標を置くと、どのフェーズで手を打つべきかが見えてきて、次の施策設計に反映しやすくなります。

まとめ

推し活マーケで成果が出たのは、推しを主役に置いたまま設計できた企業でした。LINEMOは商品を売り込まず推しと話せる体験を入口にし、ロクシタンは推しのキャラクター個性を商品デザインに落とし込みました。ユニクロは推しが選べるラインナップの幅を用意し、ローソンは推しの登場時間を分刻みで知らせる運用を組んでいます。

差を作ったのは予算ではなく、「どう売るか」ではなく「どう関わってもらうか」を先に設計したことです。販促フックの位置に推しを置いた瞬間、ファンは離れていきます。推しが主役のまま動く企画を組めるかで、ファンが購買まで動くかが変わります。