NFTを新しい顧客接点の施策として検討し始めても、価格が乱高下する投機商品のイメージが先に立ち、社内でどう説明すればいいのか判断できずにいるマーケティング担当者がいます。
投機ブームが落ち着いた今も、NFTを「本物である証明」として顧客接点に組み込む活用は続いています。
自社のブランドや商品、顧客接点の何に証明を付けられるかという視点で仕組みと代表的な活用パターン・注意点まで押さえ、導入を検討すべきかどうか判断してみてください。
NFTマーケティングとは
NFTと聞くと、価格が乱高下する投機商品のイメージが先に立つ担当者がいます。ですが企業がNFTをマーケティングに使う場合、狙いは値上がり益ではなく「本物である証明」を顧客接点に組み込むことにあります。何かにNFTを付けること自体は目的にならず、自社の何を対象にするかで使い道が決まる、というのが実務の出発点です。
たとえば小田急電鉄と共催された「ムーンアートナイト下北沢」では、NFTチケットの保有が入場の証明であると同時に、保有者限定のアート作品やNFTスタンプラリーへの参加権にもなりました。約40万人が来場するイベントとなり、チケット自体を証明として使い、そこに体験を積み重ねる設計です。
証明としての使い道は入場券に限りません。大阪・関西万博の「EXPO2025デジタルウォレット」は、来場記念のNFT「ミャクーン!」と譲渡できないSBTを発行しており、SBTは2025年10月時点で500万枚を超える発行実績を持ちます。
会員証にNFTを使う場合も、狙いは唯一無二の証明を顧客との長く続く接点に変えることで、単発の話題作りとは性質が違います。NFT会員権は画像や音声と並ぶデジタルグッズの一形態でもあり、限定販売や特典配布と組み合わせて設計する事例もあります。
▶ デジタルグッズとは?VTuber向けの種類・作り方・売り方を解説
一方で、投機としてのNFT市場は落ち着きを見せています。Gartner社のハイプ・サイクルでは、2023年時点でWeb3・NFTともに「幻滅期」に位置づけられました。値上がりを目的とした売買ブームが退いた後も、証明の道具としての活用は続いている、という状態が今の実情です。
ここで扱うNFTマーケティングは、投機的な売買や作品としてのNFTアートではなく、企業がブランド・商品・顧客接点にNFTを活用する施策全般を指します。
NFTマーケティングの仕組み
画像も音声もコピーすれば見た目は同じものが無数に生まれます。ただしNFTは、複製できるデジタルデータに唯一性を与える点でそれと異なります。「どれが本物か」をデータそのものに刻むため、発行元や保有者が誰でも確認できます。分けて見ていくと、この確認できる仕組みがどこで支えられているのかが分かります。
代替できるトークンとできないトークンの違い
同じ1万円札は、誰の1万円札でも価値が同じで、他人のものと入れ替えても困りません。これが交換のきくトークン、FT(代替性トークン)の考え方です。一方でNFT(非代替性トークン)は1点ずつ区別でき、同じ絵柄を発行しても一枚ごとに別のものとして扱われます。
この違いは技術規格にも表れていて、通貨のように扱うトークンはERC-20、1点ものとして扱うトークンはERC-721という区分になります。交換して等価になるものと、入れ替えのきかないもの。マーケティングでNFTが使われるのは、この入れ替えのきかなさが「その人だけの証明」に向いているからです。
ブロックチェーンが保有者を記録する流れ
NFTが本物だと言えるのは、記録の残り方に理由があります。まず発行(ミント)でブロックチェーン上にデータが刻まれ、いつ誰の手に渡ったかが記録として残ります。以降の移転履歴も誰でも追える形で残るため、後から書き換えたり、こっそり増刷したりが効きません。
発行元をたどれば、正規品かどうかの判別もつく仕組みです。記録を一社が抱え込まず公開の台帳へ積み上げていくため、後から改ざんしにくくなります。
SBTという移せない証明
NFTは売買や譲渡ができますが、それが不都合な場面もあります。会員資格や来場実績のように、本人だけに意味がある証明を他人に売られては困るからです。そこで使われるのがSBT(ソウルバウンドトークン/譲渡不可トークン)です。
転売できるNFTと、本人に紐づけて移せなくするSBTを、目的に応じて使い分けられます。売買や譲渡で価値を回すものはNFT、資格や実績として固定したいものはSBT。自社が顧客に渡したいのが「動かせる資産」なのか「動かせない証明」なのかで、選ぶ側が変わります。
いま注目されるNFTマーケティングの背景
なぜ今、NFTマーケティングに注目が集まるのでしょうか。従来の施策では、商品を売って終わり、会場に足を運んで終わりと、顧客との接点はその場限りで途切れがちでした。その背景には、購入や来場で終わらず関わりを後から辿れるという発想の転換があります。
一度きりで終わらない顧客とのつながり
ライブに来た人も、商品を買った人も、その履歴が保有NFTに刻まれてウォレットに残り、次の特典や体験へつながる入り口として働きます。これが、NFTマーケティングが一度きりの購入や来場で終わらない理由です。従来の施策では、来場者のリストは当日限りで散っていき、誰が来たのか、次に何を届けるかをつなぎ直す手立てが薄いままでした。
NFTを付けただけで、自動的に絆が深まるわけではありません。NFTはツールであり、大事なのは何に付与して関係をどう続けるかです。会員証に付けるのか、チケットに付けるのかで、施策の中身は変わります。
サードパーティCookieに頼らないターゲティング
誰に届けるかを判断する材料も変わりつつあります。長らく広告のターゲティングを支えてきたのがサードパーティCookieでした。しかしブラウザ側の規制が進み、その仕組みは細っています。ここで注目されるのが、ウォレット内の保有NFTを興味関心のデータとして使い、Cookieに依存せず届けられるという考え方です。
どのNFTを持っているかを見れば、その人が何に関心を持っているかがある程度わかります。こうした発想はトークングラフマーケティングとも呼ばれます。個人を追跡するのではなく、保有物から関心を読む。Cookieが使えなくなる時代の、もう一つの入り口になります。
NFTマーケティングの代表的な活用パターン
どれも根っこは同じで、顧客接点のどこかに本物の証明を付ける発想です。自社の会員制度、チケット、来場者への記念のどれに当てはめるかによって、選ぶべき型が変わってきます。
デジタル会員証
会員証をNFT化する動きは、2022年12月に始まったStarbucks Odysseyが代表例です。会員は店舗での体験に応じてジャーニースタンプにあたるNFTとポイントを集め、貯めたスタンプは交換もできる仕組みになっています。
紙のスタンプカードやアプリのポイント表示と違い、会員一人ひとりの行動履歴がNFTという形で残る点が特徴です。
デジタルチケット
チケットのNFT化は、2022年春に始まったLAWSON TICKET NFTやジャニーズ事務所のコンサートチケットNFT化など、国内でも実例が出ています。狙いは不当な転売の防止で、入場権そのものに本物の証明を持たせる発想です。
チケットNFTは、入場データにとどまらず、ファンの真贋を証明するものという位置づけで語られます。会場で「本人が持っているチケットかどうか」を確認する手段になります。
ただし、転売対策の手段はNFTだけではありません。購入者の本人確認など、他の方法でも同じ目的を実現できます。NFT化は、他の対策と組み合わせて使う手段です。
来場や参加の証明
来場や参加の証明を本人に紐づく形で残せるかどうかは、記念グッズやスタンプとは仕組みが異なります。代表的な技術にはPOAPや、譲渡できないSBTがあります。
紙のスタンプラリー台紙や参加証と違い、後から本人以外に渡せない点が設計上の違いです。
実物商品にひもづく証明
実物商品の購入者にNFTを付与し、真贋保証やアフター特典につなげる活用もあります。商品本体とデジタルの証明書がセットになることで、正規購入者だけが受けられる特典を設計しやすくなります。
紙の保証書は、中古で人に渡った時点で効力があいまいになりがちです。NFTなら、購入履歴の証明として流通後も機能し続ける点が異なります。
スタンプラリーでの回遊
紙のスタンプラリー台紙をデジタルに置き換えたのが、この使い方です。店舗や観光地を巡ってもらい、各地でNFTを集めさせる施策で、目的は回遊と再訪の後押しにあります。
集めたNFTがそのまま来訪履歴として残るため、次の来店を促す材料にもなります。
コミュニティ共創
保有者だけが入れる場があるかどうかで、ファンとの距離は変わってきます。NFTの保有者限定コミュニティを作り、一緒に企画を作る共創に使う例もあります。
保有していること自体が参加資格になるため、通常のファンクラブより閉じた場を作りやすい設計です。投機的な盛り上がりは落ち着いた一方で、こうした用途としての活用は続いています。
NFTマーケティングのメリット
NFTを配布したあと、半年で誰にも開かれなくなるケースがあれば、何年も手元に残り続けるケースもあります。この差を生むのは、何にNFTを付けるかという選び方です。
顧客生涯価値を伸ばせる
NFTを持つ人との取引は、一度きりでは終わりません。保有している間、そのブランドとの接点は途切れずに続きます。来店するたび、限定イベントに顔を出すたびに、一人あたりの取引は少しずつ積み上がります。
むしろ、見込むべきは新規客だけではない、そんな発想の転換です。すでにつながっている人との関係を長く保つほど、顧客生涯価値、いわゆるLTVは伸びていきます。新しい人を次々に呼び込む力より、いま手元にいる保有者を手放さない工夫が効いてきます。継続する接点があるかどうかで、一年後の売上は変わってきます。
このLTV重視の考え方は、NFTに限らずファンとの関係を土台にしたマーケティング全般に共通する視点です。指標の立て方や進め方を詳しく知りたい場合は、以下も参考にしてください。
▶ ファンベースマーケティングとは?始め方と成功事例を実践企業に学ぶ
顧客獲得コストを抑えられる
新しいお客様を集めるには、広告費がかかります。一方、すでにNFTを持つ人は、そう簡単には離れていきません。つながり続ける保有者がいることが、この負担を軽くします。
同じ売上をつくるのに、毎回新規の来店を呼び込み続ける必要はなく、既存の保有者が繰り返し戻ってくれば、新規開拓に頼りすぎずに済みます。コストの重心は、集めることからつなぎ続けることへ移っていきます。
ブランドの世界観を継続的に伝えられる
保有するNFTにはデザインがあり、手元で開くたびにブランドの世界観に触れられます。限定の特典体験もまた、そのブランドらしさを静かに伝えていきます。広告と違って一度流れたら消えるものではない点が、この強みです。
手元に残り続けるからこそ、折に触れてメッセージが届きます。声高に押し付ける必要もない、その距離感が心地よさを生みます。なお、持ち続けてもらうこと自体が、ブランドを語り続ける場になります。
NFTマーケティング導入の注意点
施策の巧拙より前の段階でつまずく企業があります。ウォレット設定と暗号資産取得という技術的な複雑さが、NFTマーケティングを検討する担当者の前に壁として立ちはだかります。顧客に届けるだけでなく、届いた先で受け取ってもらえるかどうかで、施策の結果は変わります。
ウォレットや暗号資産の準備が壁になる
NFTを配布する側の準備は整っても、受け取る顧客側がウォレット設定や暗号資産の取得でつまずき、参加のハードルが上がる場面があります。スマートフォンにウォレットアプリを入れ、秘密鍵を管理し、必要に応じて暗号資産を用意するという手順を踏まなければなりません。ふだんアプリのダウンロードボタンを押すだけで完結する体験に慣れた消費者にとって、この一連の手順には数ステップ分の余計な距離があります。
施策自体の魅力とは別のところで、離脱が起きます。
発行価格の設定ミスで価値が崩れる
発行価格はどう決めれば崩れないのでしょうか。答えは、市場の求める量を読み違えないことに尽きます。発行価格を高く設定しすぎたり枚数の需給を読み違えたりすると、発行直後に価値が崩れる例が見られます。
たとえば、企業が想定した希少性と実際に集まった需要がずれたとき、価格はすぐに市場の評価にさらされます。
そのため価格設計は一度公開すると簡単にはやり直せません。発行前の需給見極めが欠かせないゆえんです。
ロードマップが曖昧だと熱量が続かない
発行後に何を提供するか曖昧なまま示せないと、保有者の熱量は次第に冷めていきます。NFTを手にした時点がゴールではなく、そこから何が起きるかが手にした人の関心をつなぎとめます。
メディアの盛り上がりが引いたあとに保有者が冷めたと感じるケースの多くは、その後の予定が発表されていない状態と重なります。発表時の熱量だけに頼った設計は、時間の経過に耐えられません。
税制や法規制がまだ固まっていない
NFTに関わる税制や規制の扱いはまだ固まりきっていません。発行時の所得区分、二次流通時の扱い、景品表示法との関係など、専門家確認が要る場面がいくつも出てきます。
担当者が独自に解釈して進めると、後から扱いを見直す事態にもなりかねません。
したがって、税務・法務の窓口は早い段階で確保しておきます。
NFTマーケティングの始め方
思いつきで発行しても、成果にはつながりません。誰に何を届けるかという戦略の明確化を出発点に、検討から実行まで段階を踏んで進めます。
誰に何を届けるか決める
誰に何を届けるかを最初に決めます。目的が曖昧なまま発行に進むと、あとの判断がぶれやすくなります。新しい客を増やしたいのか、いまの顧客との接点を長く保ちたいのか、ここで方向性を絞ることが出発点です。
たとえば狙いが違えば、届ける相手も渡す中身も変わってきます。来店客への感謝が目的なら、対象は購入履歴のある人に絞れます。ファンの裾野を広げたいなら、まだ接点の薄い層が相手です。
そのため、証明を付ける相手とその理由を、先に紙一枚に書き出します。これが固まらないうちは、デザインもプラットフォームも動かせません。
付与する内容を固める
割引や限定イベントへの招待、会員だけが読める情報、来店時のひと声まで、保有者に渡せる特典や体験の形はいくつもあります。ただし、凝った絵柄だけでは保有を続ける動機になりません。
使える特典こそが、手元に置いてもらう理由になります。デザインと受け取る体験はセットで考え、何を渡し続けられるかを無理のない範囲で先に決めておきます。
発行プラットフォームを選ぶ
専門部署を持たない企業の多くは、自前開発ではなく既存プラットフォームから始めています。自社で一から作れば設計の自由度は上がりますが、技術の担当者と時間の確保が前提です。一方、発行から販売、保有者の管理まで、既存のプラットフォームにまとめて任せられます。
手数料や対応チェーン、日本語サポートの有無によって、使い勝手は大きく変わります。まず数社を並べて、自社の目的に足りる機能があるかを見ます。
配布キャンペーンを組み立てる
レジやアプリ、来店時のQRコードなど、いつもの顧客接点に乗せて配ると、受け取りの手間が減ります。逆に、別の新しい手順を客に強いると、そこで離脱が起きます。配布のタイミングこそが、受け取られ方を大きく左右する分かれ目です。
新規の来店特典として渡すのか、購入者へのお礼として後から送るのかを含め、いつ・誰に・どう配るかを段取りとして決めておきます。まず一度、少人数に配ってみないと、受け取りの詰まりは見えてきません。
効果を測る指標を決める
発行して終わり、にはしません。効果を測る指標を、先に決めておきます。保有継続率、再訪の回数、特典の利用率、次の購入につながった割合など、目的に沿った数字をいくつか選びます。
新規の顧客を増やすのが狙いなら、新しく増えた保有者の数を見ます。関係を長く保つ狙いなら、どれだけ手元に残り続けたかが大切です。
ただし指標を後から決めると、都合のよい数字だけを拾ってしまいます。先に測る物差しを固めておくことが、発行後の振り返りの前提です。
よくある質問
従来の販促施策との違いは何か
最大の違いは、保有履歴の残り方です。従来の販促施策であるポイントは、発行元のシステム内で完結します。
NFTは履歴がブロックチェーン上に残るため外部のサービスとも連携でき、他社との共同施策や二次的な特典設計にもつなげやすくなります。
NFTは終わったと聞くが今から始めて意味があるのか
投機的な盛り上がりが落ち着いただけで、活用の意味はまだ残っています。
値上がり益を狙う売買ブームと、会員証や来場証明としての実用は狙いが異なり、後者は今も企業の顧客接点づくりに使われ続けています。
小さい会社でもNFTマーケティングは始められるのか
小さい会社でも始められます。
発行から販売、保有者の管理までまとめて任せられるプラットフォームを使えば、自社にエンジニアや専門部署がいなくてもNFTマーケティングを運用でき、まずは小規模な配布から試す進め方が可能です。
NFTチケットにすれば転売は完全に防げるのか
NFT化だけでは、転売を完全には防げません。
本人確認など別の対策と組み合わせて初めて効果が出るため、NFTは転売対策の選択肢のひとつとして位置づけて検討します。
まとめ
NFTマーケティングと、ミント数やフロア価格を追う投機は狙いが違います。何にNFTを付与するかで、使い道が決まります。
会員証にすれば長く続く関係の証明になり、チケットにすれば来場や購入の証しになります。実物商品にひもづければ、真贋を保証する印になります。証明する対象を自社の顧客接点のどこに置くかが、最初に決める1点になります。
ローソンやスターバックスの事例のように、施策としての活用は投機ブームが落ち着いた後も続いています。一方で、NFT化してもチケットの転売を完全には防げません。ウォレットや暗号資産の準備という技術的な壁も、一般顧客の離脱を生みます。この2つの現実は、導入を検討する段階で外さずに見ておく価値があります。
会員証、チケット、実物商品の証明。選択肢はすでに顧客接点の中にあります。