SNSのフォロワーは伸びているのに、グッズやチケットの売上は動きません。企画会議で新しい施策を出しても部署ごとに動きがバラバラで、何から着手すべきか決めきれません。

スポーツクラブの経済は、少数の熱狂的なファンに支えられている面があります。試合や配信だけでは、そのファンとの接点を保ち続けられません。

施策を増やす前に整えるべき社内の体制と、熱狂ファンとの接点の作り方、それを支える仕組みまで踏まえれば、自チームがまず何から着手すべきか判断できるようになります。

スポーツのファンマーケティングとは

推しチームが勝てば自分の価値まで上がったように感じ、負ければ一緒に落ち込む。スポーツのファンが抱くこの感情は、ほかのエンターテインメントではなかなか生まれません。その熱の出どころは、スポーツという競技の性質にあります。

スポーツならではの熱量はどこから生まれるか

スポーツの勝敗は、誰にも予測できません。

ところが、映画や演劇、音楽は、あらかじめ決められた筋書きに沿って進みます。スポーツはそうではありません。勝敗しだいで展開が変わることこそ、観客をゲームへ引き寄せる理由です。

同じチームを追いかけていても、次の試合で何が起きるかは誰にも読めません。勝った日は誇らしく、負けた日は気持ちが沈みます。この感情の振れ幅こそが、ほかの娯楽にはない熱の源です。

ファンマーケティングが指す範囲はどこまでか

ファンエンゲージメントは、ファンとの関係の深さそのものを指します。どれだけ愛着を持ち、どれだけ足を運び、どれだけ関わってくれているか、その濃さを表す表現です。

そのうえ、ファンマーケティングは、その深まった関係を来場や購入につなげる活動を指します。積み上がった愛着を、試合会場へ足を運ぶ・記念品を買う・ファンクラブに入るといった行動に結びつける取り組みです。

顧客エンゲージメントは指す相手が違います。こちらは一般の客との関係を表す言葉で、応援という感情の要素は薄いまま。ファンの場合は、勝ってほしい・このチームを支えたいという気持ちが土台にあります。

ファンマーケティング全体の考え方や始め方を先に知っておきたい方は、以下も参考になります。

ファンマーケティングとは?メリット・デメリットや成功事例、始め方など解説!

なぜスポーツチームにファンマーケティングが必要なのか

クラブとファンが顔を合わせられる場面は、思っているより少なくなっています。スタジアムでも画面の前でも、その機会はもともと絞られています。

ファンとの接点はなぜ限られているのか

接点の少なさは、数字を見るとはっきりします。人気クラブの動員数も、1試合あたり最大4万人ほどにとどまります。年間のホームゲームは20試合ほどです。スタジアムで顔を合わせられる回数は、1シーズンでこれだけにとどまります。

観戦の入り口も細くなりました。地上波の中継は減り、いまは試合の多くがDAZNなどの配信サービスで届きます。配信に移ったぶん、熱心なファンほど画面の向こうでその展開を追う時間は増えている一方、テレビをつけて偶然目にする、という接点はほぼ消えました。

こうして、クラブがファンと直接つながれる場は試合日の数時間に集まります。会える人も、会える回数も、あらかじめ絞られています。

少数の熱狂ファンがクラブ経済を支える

では、クラブ経済を実際に支えているのは誰か。

答えは、数の多いライトなファンではありません。実際に、資金難に直面したクラブが呼びかけると、クラウドファンディングで数千万円が集まることがあります。ふだんから深く関わっている一部のファンが動きます。

たとえば、年間10万円以上を投じる熱狂的なファンが1,000人いるクラブと、1回だけ入場券を買うライト客が10,000人いるクラブを比べてみます。どちらが長く経営を支えられるかと問われれば、人数の多さだけでは答えは出ません。落とすお金の総額でみれば、分があるのは前者です。この少数のファンとの接点をどう保てるかが、クラブ経営の次の一手になります。

ファンマーケティングを担う現場が直面する壁

ファンマーケティングを前へ進めようとするとき、施策の巧拙よりも先に社内の壁にぶつかります。

役割ごとに悩みが違う

スポンサーとの契約更新を控えた月、事業責任者はかけた費用に対して何が返ってきたのかを示せずにいます。ファンクラブの会員数もLTVも伸び悩んだままで、手元の材料の薄さに気づかされるのがこの時期です。

そのため、同じ会議でマーケティング担当が報告するSNSのフォロワー数は悪くありません。それでも、投稿への反応が伸びるほどグッズやチケットの売上へつながるわけではなく、その差が埋まらない月が続きます。

その先を託される企画担当の手元にあるのは、分析リソースの足りない断片的な情報だけです。ファンの興味関心を読み取れないまま施策を出すことになり、狙った反応が返ってきません。

一つの持ち場の遅れが、次の持ち場の判断材料を薄くしていきます。この連鎖こそが、ファンマーケティングを前に進める最初のハードルです。

社内リソースが足りず施策が属人化する

ファンクラブ運営を社内の数人で回すクラブでは、ファンへのメール連絡さえ頻度が落ちます。任される仕事は、会員情報の入退会処理、会報の撮影と印刷会社への発注、会員専用サイトの更新、会員限定アイテムの企画製作、メルマガ配信、会場での入会受付まで幅広く、担当者ひとりに集まりがちです。

たとえばイベント当日は、限られたスタッフが受付と会場対応に張りつきます。その分、翌週に回すはずだった会報の作業は後ろへずれ込みます。

ただし、人をすぐ増やせる職場ばかりではありません。手が回る人にさらに仕事が集まり、施策の企画は特定の担当者だのみです。やがてその人しか段取りを知らない属人化が進み、抜ければ回らない業務も出てきます。

部署がバラバラに動きデータが点在する

人手をかき集めるだけでは、壁は消えません。多くの現場では、券売も物販もSNS運用も、各部署がそれぞれの判断で施策を進める状態です。関連データは複数のシステムに分かれて残り、全体でのデータ分析や顧客行動の理解が進みません。

まず情報共有をしたうえで全社一丸で取り組みたい、という段階で足踏みする職場も出てきます。とはいえ、システムを新しくしただけでは、部署ごとの動き方までは揃いません。施策を積み増す前に、あちこちに散ったデータを一本につなぐ土台がまず要ります。

ファンとの関係を深める4つのプロセス

ファンとの関係づくりは、まずファンの生の声に耳を傾けるところから動き出します。どんな人がクラブを応援し、どれくらいの熱量を注いでいるのか、その見極めを飛ばして次の施策に手を伸ばすと、誰に何を届けているのかが分からないまま反応だけを追う羽目になります。

ファンを定義する

最初の作業は、ファンが何を語っているかを集めることです。SNSの発信、スタジアムでの手応え、クラブへの問い合わせ。そこから年齢や居住地といった属性と、応援にかける熱量を洗い出します。

そのうえで描くのが、代表的なファン像であるペルソナです。ライトに試合を眺める層と、遠征まで足を運ぶコア層では、向き合う相手をまず区別しておきます。届ける言葉も接し方も、両者で同じにはなりません。

ファンを集める

まだクラブを知らない潜在層と、すでに関心を持つ顕在層とでは、届け方がまるで違います。試合を一度も観たことのない人には、地域のイベントや無料招待といった入り口が必要です。すでに物販を利用した人には、次の開催日程や出場者の近況を直接知らせられます。

同じ告知を全員へ一斉配信しても、その多くは素通りされてしまいます。ところが、相手の温度に合わせて表現を選ぶと、返ってくるリアクションは変わってきます。

ファンを育てる

育てる段階でよく使われる指標が、NPS(ネット・プロモーター・スコア)です。クラブをどれくらい人にすすめたいか、を数値でとらえる制度で、ファンのロイヤリティを定量化します。試合観戦やファンミーティングといった体験を重ねるほど、この数値は動きます。

もっとも、数字だけを追うと、現場の実感とはどこでずれていくのか。熱心に通うファンが何に満足しているのかを、スコアの背後にある声から確かめておきたいところです。

NPSでファンのロイヤリティを可視化し、その熱量を事業成果に結びつける考え方は、以下で詳しく解説しています。

ファンベースマーケティングとは?始め方と成功事例を実践企業に学ぶ

ファンの行動を促す

最後は、ファンに動いてもらう段階です。SNSでの発信、記念品の購入、友人を誘っての来場といった一つひとつの行動が、クラブの収益を動かし、新しいファンを呼び込みます。

ここで欠かせないのが、呼びかけた施策がどれだけ動きを生んだかを可視化することです。何人が反応し、何が空振りだったかを見れば、次の一手の精度が上がります。この結果は、次の施策設計だけでなく、事業責任者が抱える費用対効果の説明にも転用できます。

実在クラブに学ぶファンとの接点づくり

川崎フロンターレ、B.LEAGUE、読売ジャイアンツ。動かしているファンの数は多くありません。ただ、その少数がどれだけ動いたかを可視化し、対価や場を用意して応える仕組みを持っている点は共通しています。

特別な体験をデジタルで売る

川崎フロンターレは専用ECサイトで、購入証明画像付きの選手ウォッチングツアーを売り出しました。中身は運営バスのお出迎え権、バス乗車体験、ピッチレベルでのウォーミングアップ見学の3つ。ふだんは関係者しか立ち入れない場所での時間を、そのままデジタルのアセットに変えて値付けしています。

このため、同じサイトでは選手個人からのメッセージ動画も別商品として用意され、ファンはお祝いやエールの言葉で選手との距離を縮めます。ツアーとは別に手元に残るのは、購入の証しと、誰に渡したかまで含んだ一つの体験です。このメッセージ動画は、他のファンへ贈ることもできました。

実際に、こうした売り物が成り立つのは、その体験に対価を払う少数のファンが先にいるからです。派手な売り出しの前に、誰がどこまで払ってくれるのかを確かめる地味な作業が待っています。

ファンを参加させて熱量を可視化する

B.LEAGUEは、オールスターゲームの出場者をファン投票という参加の形で選び、その熱量を可視化しました。自分の推す選手のハッシュタグを付けて一票を投じる仕組みです。宇都宮ブレックスの比江島慎が473,282票を集め、千葉ジェッツの富樫勇樹が460,816票で続きました。

この1万票あまりの差は、ファン一人ひとりの投稿が積み上がった結果です。誰がどれだけ動いたかが、票数という手に取れる数字になって外から見えてきます。投票が締め切られればその数は動かなくなりますが、動いたファンの記録は残ります。

ファンの声を試合の場に返す

読売ジャイアンツは、ファンからの応援メッセージを東京ドームのオーロラビジョンに映し出しました。熱い巨党といったハッシュタグを付けてテキストや画像を書き込むと、その一部が試合中の大型ビジョンに表示される仕掛けです。

スタジアムに足を運べないファンでも、自宅から送ったメッセージが球場の光景の一部になります。映せる枠はごく限られ、書き込みのすべてが大型ビジョンに拾われるわけではありません。どの声を試合の場に返すかは、球団の運営チームが選んでいます。

新規ファンを増やす集客の考え方

有料のSNS広告に予算を投じても、集客はなかなか効果が出にくいと言われます。スポーツの現場からは、そんな声が上がります。

SNS広告だけでは新規は集まらない

支持者数や広告の表示回数が伸びても、現地観戦の座席は埋まりません。この数年、集客といえばSNSばかりが注目されてきました。しかし画面の向こうの手応えと、当日にスタンドへ足を運ぶ人の数は一致しません。新規のファンを試合に呼び込む力という点では、広告への偏りは心もとない賭けです。

集客はそもそも、一度きりの打ち上げだけでは続きません。開催のたびに単発で終わらせず、短期・中期・長期を分けた包括的な設計が必要です。SNS広告は、そのなかの一接点にとどまります。

5つの接点で地域から積み上げる

福山シティFCは、2022年4月3日の中国リーグ戦で2,731人を集めました。地域リーグでこの人数に到達するのは、並大抵のことでは実現しません。

この集客を、地道な積み重ねが支えました。グラスルーツ、マスメディアや地域メディア、試合会場、オンライン、そしてパートナー企業や自治体・商店街まで、幅広い接点を重ねてきました。

たとえば選手が自分でチラシを配ることもあれば、地元の小学校を訪ねてフットサル教室を開くこともあります。代表や副代表は、地域のテレビ局や地方紙を一軒ずつ回りました。最初は冷たくされても、粘り強く足を運び続けたそうです。

こうした地域活動は、その日のうちには効果が表れません。ボディブローのように、後からじわりと効いてきます。同じ担当者が手がけた国際親善カードでは、来場者5万8,000人という規模に達した例もあり、地域の小さな接点は積み上がった先で大きな数へつながることがあります。

スポンサーや企業側の視点から集客手法や効果測定を順を追って知りたい場合は、以下も参考になります。

スポーツマーケティングとは?手法・成功事例・効果測定など解説!

チケミーでファンとの関係構築を支える

派手なSNS施策を並べるより、すでにクラブを支えている少数の熱狂ファンとの接点を切らさないことが、収益に響きます。そのつながりを継続させる手段の一つに、チケミーがあります。

デジタルアセットや会員体験をファンに届ける

チケミーでは、デジタル入場券やデジタルアセットを販売し、試合の舞台裏体験や限定コンテンツをファンに届けられます。放送や会場では見られない舞台裏の記録を、購入者のもとへ直接送れる形です。

紙の券やもぎりでは後に残らない、その人だけが手にする記念のアセットです。何度も足を運ぶファンほど、この一枚に価値を感じます。

さらに、独自ドメインの販売サイトを立てれば、クラブのファン向け販売の窓口をひとつにまとめられます。記念グッズも会員限定の体験チケットも、買える場所は同じです。この設計が効くのは、すでにクラブを支持しているコアなファンに向けたときに限られます。彼らが何度も戻ってくる売り場を、クラブが自前で持てるかが分かれ目になります。

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まとめ

新しい施策に手を伸ばす前に、まず社内の体制を整えます。そして、目の前にいる少数の熱狂ファンとの接点を切らさないことです。

ファンと会える機会は、もともと限られています。それでも、その限られた場に足を運ぶ熱心なファンがクラブの収益を支えます。だからこそ、支持者数の多さや華やかな露出より、すでにいるファンとの関係を切らさないことが先に来ます。

SNSのフォロワーが増えても、そのまま売上にはつながりません。有料のSNS広告を回しても、新規の集客は思うように伸びません。そのうえ、社内の部署が別々に動きデータが散らばったままでは、どの施策も途中で止まります。

施策は、そのあとに足します。散らばったデータを一本につなぎ、目の前のファンとの接点を組み直すところから始まります。順番を逆にしないこと。

事業責任者は、スポンサー報告の材料をLTVやファンクラブ会員数から集め直すところから着手し、マーケティング担当は支持者数ではなく購入や来場につながった接点を洗い出します。企画担当は、まず一つの部署が抱えるデータを別チームの記録と突き合わせ、どこから統合できるかを確かめることが最初の一歩になります。