「中国のチケット会社」と検索すると航空会社の情報も混ざりますが、ここで扱うのは中国アーティストの来中公演やフェスの、チケット販売元を探している人向けの内容です。
航空券や鉄道の予約とは仕組みが違い、資本背景の異なる5社前後が大麦を筆頭に映画系とライブ・演出系で分立しています。日本のぴあのように1社が全ジャンルを扱う構造ではありません。
読み終える頃には、行きたい公演の種類と規模から見るべき会社の当たりをつけられます。まずは映画系かライブ系かを見分け、日本の会社との対応関係も判断材料として活用してみてください。
中国のチケット市場は一超両強で動いている
各社の顔ぶれに入る前に、その土台になっている市場の動きを見ておきます。コロナ禍で落ち込んだ公演市場はこの数年で一気に戻り、いまは複数の会社が客を奪い合う状態にあります。
演出市場は年796億元規模まで回復した
中国演出行業協会がまとめた2024年の全国演出市場は、総体収入で796.29億元に達しました。うちチケットにあたる票房収入は579.54億元で、前年から15.37%伸びています。
さらに開催された公演は48.84万場、動員は延べ1.76億人次にのぼりました。ライブや演劇の本数が増え、動く金額も観客数も大きく膨らんだ一年です。
大麦・猫眼・票星球の一超両強
かつて演出チケットは大麦がほぼ独り勝ちでした。そこへ猫眼と票星球が食い込み、三社が並ぶ一超両強、いわゆる三分天下の構図に変わっています。
先頭を走る大麦は、規模でも知名度でも頭ひとつ抜けた存在です。猫眼は映画チケットを主戦場としてきたため、演出分野の存在感はそこまで大きくありません。票星球は小紅書や抖音で若いユーザーを取り込み、設立3年で伸びてきた新顔です。さらに近年は、主催者が自ら券を売る主催者直販が新しい流れとして目立ちます。
公式販売と二次流通で会社の立ち位置が違う
同じチケットを扱っても、公式販売と二次流通では会社の立ち位置が分かれます。大麦のように主催者側から正規の券を売る会社がある一方、買った券を売り買いする仲介の場を運営する会社もあります。
摩天輪票務は2015年設立で、コンサート・音楽フェス・演劇・スポーツ試合のチケットを扱う二次流通の取引プラットフォームです。手元の券を手放したい人と欲しい人をつなぐ役回りで、正規販売とは客との関わり方が違います。
ライブや公演チケットの主要会社
ファンが中国で公演を探すとき、どこか一社を決め打ちするより、目当てのアーティストごとに何社かを使い分けることになります。大麦・秀动・纷玩岛など、扱う公演の規模と資本背景で向き不向きが分かれます。
大麦(Damai)
大麦(ダーマイ/Damai)は、アリババグループが運営する中国最大の公式チケット販売プラットフォームです。設立が早く、体量は各社のなかで最大にあたります。ユーザーの認知度も高く、座席選択や抽選、リマインドといった機能に不足はありません。そのぶん扱う量が多いため、対応をめぐる苦情の件数も相応に積み上がっています。
大型コンサートやスポーツイベントのほとんどは、この大麦で券が販売されます。有名アーティストの中国公演を追う日本のファンが最初にたどり着くのも、たいていここです。近年は国際版としてMAISEATが提供され、中国国外からアクセスする導線も整えられてきました。
猫眼(Maoyan)の演出事業
猫眼(Maoyan)はWeChatとの連携が強く、ミニプログラム上で検索から決済まで完結し、支払いはWeChat Payで済ませられます。使い勝手の良さは折り紙付きです。
もっとも、猫眼の主な販売源はあくまで映画チケットで、演出分野での認知度はそこまで高くありません。ライブや演劇を探すファンにとっては、第一の選択肢になりにくい位置にいます。
秀动(ShowStart)
秀动(ShowStart)を運営するのは、成都太合楽動科技有限公司です。太合音楽グループが立ち上げた会社で、公演検索と票務をひとつにまとめたワンストップのアプリを提供しています。大手が独占する大型公演とは客層が異なり、ライブハウスやインディーズ音楽の現場に特化しているのが持ち味です。
そのため、規模の小さいバンドの現場では、この秀动が使われる場面が目立ちます。北京のライブハウスでは、羊文学やカネコアヤノの公演チケットが秀动で約300元、日本円にしておよそ6,000円で販売されていた記録があります。
あくまで個別公演の一例ですが、大型アリーナの券とは価格帯も雰囲気も違い、こうした小箱の情報を追うなら外せない一社です。日本のアーティストが中国でライブハウスを回るとき、その券がここに並ぶこともあります。
纷玩岛(Fenwandao)
纷玩岛(Fenwandao)は、CMC Live(上海華人文化演芸)が100%出資する会社です。自社が主催・運営する公演の公式チケット代理を務める立場にあります。実質的には、親会社が手がける公演の券を正規に売る窓口という色合いが濃い会社です。
扱う顔ぶれには、五月天や周華健、劉若英、王嘉爾などの公演が並びます。特定の主催公演を狙うなら、大麦より先にここを確認したほうが早いこともあります。
票星球(PiaoXingQiu)
小紅書のタイムラインを眺めていると、公演の告知に券の購入リンクがそのまま流れてくることがあります。それを手がけているのが票星球(PiaoXingQiu)です。SNSと券売を地続きにする売り方で、若いユーザーの支持を集めてきました。
ただし市場シェアで見ると、先行する大麦とはまだ差があります。分立する各社のなかで、これから位置を押し上げていく側にいる会社です。
映画チケットは別のプレイヤーが握る
中国で映画を観ようと大麦のアプリを開いても、目当ての作品の座席は出てきません。映画のチケットは、ライブや演出とはまったく別の会社が握っているからです。
淘票票(Taopiaopiao)
中国の映画館の興行収入のうち、全国の95%以上をカバーするとされるのが淘票票(Taopiaopiao)です。主要な映画館はほぼこのプラットフォームでチケットを販売しており、映画の座席を確保する窓口としては外せない一社です。運営はアリババグループで、その資本を背景に支付宝(Alipay)による決済や座席選択がアプリの中で完結します。
演出分野で大麦がライブ券の主要な入り口だったのに対し、映画の領域ではこの淘票票が同じ役割を果たす位置にいます。日本のファンが中国で映画を観ようとするとき、実際にチケットが並ぶのもこのプラットフォームであることが多くなっています。
猫眼の映画事業
演出事業では第一の選択肢になりにくかった猫眼(Maoyan)ですが、映画では話が変わるのでしょうか。実際、猫眼の主戦場はもともと映画チケットで、この分野では淘票票と並ぶ規模を持っています。
演出側での存在感の薄さとは対照的に、映画では淘票票と猫眼の二社が市場を二分する構図です。演出の項で触れたWeChatミニプログラムの使い勝手は、この映画チケットの販売でより生きています。
日本のぴあやイープラスにあたるのはどの会社か
日本ではぴあやイープラスといった一社が、音楽ライブから演劇、スポーツ、映画の前売りまで横断して扱います。中国で同じように一社を探そうとすると、ぴったり重なる会社は見つかりません。ジャンルごとに主役の会社が入れ替わるためです。
ライブや演出のチケットで日本のぴあに近い位置にいるのは大麦(Damai)です。日本のファンが最初に触れる窓口も、先に見たとおりここに集まります。一方、映画の前売りになると窓口はまったく変わり、同じアリババ系の淘票票(Taopiaopiao)や猫眼(Maoyan)が受け皿になります。日本の一社が引き受けている役目を、中国ではライブ系と映画系で別の会社が分け合っています。
分立しているとはいえ、日本のファンが実際に触れる先は大麦や秀动など数社に偏ります。
日本と大きく違う実名制というチケットの仕組み
どの会社でチケットを買っても、日本との違いはほぼ同じ形でぶつかります。チケットに購入者の身元が紐づく実名制が、日本との最大の違いです。個別の限度額や照合のやり方は各社で細かく異なりますが、この形はどの会社を選んでも共通します。
1枚=1人の実名制(弱実名と強実名)
中国のチケットには実名制(实名认证)が敷かれ、チケット1枚につき1つのID、1人の入場が原則です。同じ実名制でも運用には幅があり、弱実名と強実名に分かれます。
以下のように、購入時の求められ方と入場時の照合方法が異なります。
| 区分 | 購入時の確認 | 入場時の照合 |
|---|---|---|
| 弱実名 | IDの入力を求められる | QRコードのみで入場できる場合が多く、友人の分をまとめて買って渡すこともできる |
| 強実名 | 購入時に登録したIDが必要 | 入場者のID原本と一致しなければ入れず、本人・身分証・チケットの三つが揃わなければ通されない運用です。顔認証ゲートで本人を確かめる会場もある |
また、外国人はこの自動顔認証ゲートに対応していないため、人工通道(有人ゲート)へ回り、係員がパスポート原本を目視で照合します。同じ公演でも、日本のように紙やスマホの券面だけで通れるとは限りません。
決済は中国のスマホ決済が前提
支払いはAlipayやWeChat Payといった中国のスマホ決済が中心です。日本で発行したクレジットカードはそのまま通らないことが多く、Alipayなどのアプリを用意しておかないと購入まで進められないケースがあります。
限度額もアプリごとに異なります。Alipayは海外カード紐付け時の1回の上限が3,000元(約6万円)で、WeChat Payにも利用者の報告ベースで累積の限度額があるようです。高額なチケットや複数枚をまとめて買うと、この枠に引っかかることがあります。
日本の電話番号・言語への対応状況
登録の入り口でつまずきやすいのが電話番号です。中国のプラットフォームは中国国内の携帯番号での認証を基本に作られている場合が多く、日本の番号ではSMSの認証コードが届かず、アカウント登録の段階で止まることがあります。表示言語も中国語が基本で、日本語はもちろん英語への対応も画面によってまちまちです。
日本の番号やクレジットカードが通るようになったという報告もあれば、その逆に戻ることもあり、ここに書いた対応状況は執筆時点の状況にすぎません。
中国のファンにチケットを届けたい主催者の選択肢
ここまで並べた会社は、いずれも中国国内で開かれる公演や映画のチケットを中国のファンへ売る側です。逆に、日本の公演やイベントを中国のファンへ届けたい主催者から見ると、立ち位置が変わります。
大麦のような中国側のプラットフォームに出品する道もありますが、そこでは実名制の登録や中国のスマホ決済、中国語の運営画面といった前提を、今度は主催者の側がすべて引き受けることになります。中国国内で自ら公演を主催する場合は、文化局への申請から会場確保まで別の実務が発生します。
▶ 中国でイベントを開催する方法|文化局申請からチケット販売・決済対応まで実務手順を解説
もう一つの道が、日本の主催者が自分の販売ページから中国のファンへ直接売る形です。チケミー(TicketMe)はNFTを使って1枚ごとに発行元をひもづけ、正規ルート外での高額転売を抑えます。表示は9言語に対応し、Alipayなど中国のファンが使い慣れた決済も選べるため、中国国内の会社を経由せずに販売まで進められます。どちらの道にも手間はあり、扱う公演の規模や客層で向き不向きは分かれます。
中国のファンへ向けた販売を検討している主催者は、TicketMeの相談窓口から自社の公演に合った売り方を相談できます。
よくある質問
中国のチケットは日本にいながら買えますか
大麦や淘票票のアプリ自体は国外からでもダウンロードでき、購入操作を日本にいながら進めることはできます。中国国内からのアクセスだけに限定されているわけではありません。
実際に詰まりやすいのはアクセスできるかどうかではなく、アカウント登録時の電話番号認証と決済手段の対応可否のほうです。
中国のチケットに日本のクレジットカードは使えますか
国際ブランドのクレジットカードであっても、そのまま単体で決済に使える会社は多くありません。
AlipayやWeChat Payにカードを紐づけて使う形が中心になるため、事前にウォレットアプリ側でカード登録が通るかを確かめておくと安心です。登録画面でエラーが出た場合は、カード発行会社側で海外利用設定がオンになっているかもあわせて確認してみてください。
他人が買った中国のチケットを譲ってもらえますか
公演ごとの実名制の運用しだいで、他人名義のチケットが入場時にそのまま使えるかどうかは変わります。
公式に名義変更やリセールの手続きが用意されている公演を除き、フリマアプリなど非公式ルートでの譲渡は入場できないリスクを伴います。強実名制の会場では、身分証の名義とチケットの登録名が一致しない時点で入場を断られた例も報告されています。
まとめ
中国のチケット会社は、大麦を中心にライブ・演出系と映画系で担い手が分かれています。ライブなら大麦・秀动・纷玩岛・票星球、映画なら淘票票と猫眼という顔ぶれを知っておけば、行きたい公演の種類からどの会社を見るべきかの当たりがつきます。
会社選びの前に忘れずに確認したいのは、どの会社を選んでも実名制と中国式のスマホ決済という共通の前提がつきまとうことです。会社ごとの対応状況は短い間隔で変わるため、実際に使う場面ではその会社の最新の登録画面で確かめてください。