巨人戦のチケットが即日完売する一方で、平日ナイターはガラガラ——プロ野球チームの多くが、この需要格差に頭を悩ませています。固定価格のままでは、人気カードで取れるはずの収益を逃し、不人気カードでは空席ばかりが目立ってしまいます。

この課題を解決する手段の一つが、ダイナミックプライシングです。試合ごとの需要に応じて価格を変動させ、収益最大化と観客満足度向上の両立を目指します。本記事では、国内プロ野球チームの導入事例から成功のポイントまで、実践的な情報をお届けします。

関連:ダイナミックプライシングとは?メリットやデメリットを紹介!

プロ野球におけるダイナミックプライシングの導入背景

なぜ今、プロ野球でダイナミックプライシングが広がっているのでしょうか。その背景には、3つの要因があります。

試合ごとに変動する観客需要への対応のため

優勝争いのかかった試合と消化試合、巨人戦と平日ナイター。同じ球場でも、観客の入りは全く違います。対戦相手、曜日、天候——需要を左右する要素は数え切れません。

固定価格制では、この波に乗れません。人気試合で価格を上げられず収益を取り逃がし、不人気試合で価格を下げられず空席を抱えてしまいます。ダイナミックプライシングは、この両方の問題を解決できます。

競争激化による収益最大化のため

NetflixやYouTube、eスポーツなど、ファンの可処分時間を奪い合うライバルは増え続けています。球場に足を運んでもらうハードルは、年々高くなっています。

だからこそ、1試合ごとの収益を最大化する必要があります。ダイナミックプライシングなら、売れ行きを見ながら価格を調整できます。増えた収益で有力選手を獲得すれば、チーム力も向上し、好循環を生み出せます。

多様なファンニーズへの対応するため

ファン満足度の向上も見逃せません。ニーズは多様化しており、人気試合は高くても観たいという層がいる一方で、平日なら安く観戦したいという声も。すべてのファンが同じ価格帯を求めているわけではないのです。

ダイナミックプライシングなら、こうした多様なニーズに応えられます。平日の試合を割引価格で提供し、普段は観戦しない層を取り込めます。ファンが望む試合や座席を適正な価格で提供できれば、満足度向上とリピーター増加の両方が期待できます。

関連:ダイナミックプライシングがスポーツ界に与える影響とは?

国内プロ野球チームの導入事例

国内プロ野球では、すでに多くの球団がダイナミックプライシングを導入しています。導入時期や運用方法は球団ごとに異なり、それぞれの特徴があります。

  • オリックス・バファローズ(2019年から本格導入)
  • 東北楽天ゴールデンイーグルス(AIによる完全自動化)
  • 千葉ロッテマリーンズ(テスト的導入から段階的展開)
  • 中日ドラゴンズ(後方スタンドでの試験運用)
  • ソフトバンクホークス(先駆的な全試合適用)
  • 東京ヤクルトスワローズ(慎重な段階的導入)

オリックス・バファローズ(2019年から本格導入)

オリックス・バファローズは、日本プロ野球界で初めて全席種を対象としたダイナミックプライシングの実証実験を行った球団です。2019年7月のオリックス対楽天戦で実施された実験では、試合当日の需要に応じて1円単位でチケット価格を変動させた結果、通常の価格設定と比較して14%の収入増加を達成しました。

この成果を受け、球団は2019年シーズンからダイナミックプライシングを本格導入しました。人気試合では需要に応じて高値を設定し、空席が目立つ試合ではお買い得価格を設定するなど、需要に応じた機動的な価格変更を実現しています。この取り組みが、収益の最大化と観客動員数の改善に大きく貢献しているのです。

東北楽天ゴールデンイーグルス(AIによる完全自動化)

楽天イーグルスは、ダイナミックプライシングに早期から着目していた球団です。2016年からの試験導入を経て、2021年シーズンにはAIを活用した完全ダイナミックプライシングへと移行しました。

この システムでは、試合6週間前からAIがデータを分析し、チケット販売開始時の最適な価格を設定します。さらに、試合当日までの需要動向に応じて、AIが価格を15分ごとに自動で変更する仕組みを採用しています。この高度な自動化が、人的コストの削減と需要に即した価格設定の両立を可能にしました。

千葉ロッテマリーンズ(テスト的導入から段階的展開)

千葉ロッテマリーンズは、2020年シーズンから全試合でダイナミックプライシングを導入しました。球団はこれを「本格導入」ではなく「テスト的導入」と位置づけ、慎重にデータを収集しながら運用を進めています。

コロナ禍で入場制限を余儀なくされた2021年には、需要増加に伴いダイナミックプライシングの効果が顕著に現れました。観客動員数の回復が課題となる中、価格設定の精度を高めることで収益力の向上を図っています。段階的なアプローチで、リスクを最小限に抑えながらノウハウを蓄積している点が特徴です。

中日ドラゴンズ(後方スタンドでの試験運用)

中日ドラゴンズは、2021年から後方スタンドの一部でダイナミックプライシングによる「パノラマDP」を試験導入しました。その後、全71試合に対象を拡大し、本格運用に移行しています。

球団は、人気試合日程では高めの価格設定を行い、それ以外では低めの価格設定を行うことで、チケット収入の最大化と着席率の向上を同時に目指しています。後方スタンドという限定的な範囲から始め、リスクを抑えながら効果を検証する慎重な姿勢がうかがえます。

ソフトバンクホークス(先駆的な全試合適用)

ソフトバンクホークスは、ダイナミックプライシングの先駆的存在です。2017年の一部試合から導入を開始し、徐々に対象エリアを広げていきました。そして、2020年シーズンには球団の全試合に完全適用するに至りました。

ホークスはYahoo!ショッピングとも連携し、1試合あたり1,500席をAIチケットとして動的に販売しています。利用者の行動データを収集・分析することで、AIの価格予測精度を継続的に向上させる取り組みも行っています。このような先進的な取り組みが、他球団の模範となっているのです。

東京ヤクルトスワローズ(慎重な段階的導入)

ヤクルトスワローズは、2017年に三井物産と協力し、ダイナミックプライシングの実証実験を一部試合で実施していました。しかし、本格導入には慎重な姿勢を見せており、データの蓄積と検証を重ねていました。

2022年シーズンに至って、ようやくダイナミックプライシングを導入しました。この慎重なアプローチで、他球団の事例を参考にしながら自チームに最適な導入方法を探ってきたといえます。段階的な導入により、ファンの反応を確認しながら運用を進めています。

ダイナミックプライシング導入による効果

では、実際に導入するとどんな変化が起きるのか? 主な効果を見ていきましょう。

  • 需要に応じた価格設定で収益が増加する
  • 空席率を削減し観客動員数を改善できる
  • ファンごとに最適な価格を提示できる
  • リアルタイムでの柔軟な価格調整が可能になる

需要に応じた価格設定で収益が増加する

巨人戦が完売間近なのに、価格は据え置き——これでは収益を取りこぼしてしまいます。ダイナミックプライシングなら、需要が高まった瞬間に価格を引き上げられます。その増収分を選手獲得や設備投資に回せば、チームはさらに強くなります。

空席率を削減し観客動員数を改善できる

平日ナイターで空席だらけのスタンドは、見ている方も寂しいですし、収益も上がりません。価格を下げて席を埋めれば、グッズや飲食が売れます。スタンドが賑わえば、選手のモチベーションも上がります。空席を減らすだけで、プラスの連鎖が生まれるのです。

ファンごとに最適な価格を提示できる

3つ目は、パーソナライズされた価格提案です。ファンのニーズは一人ひとり異なります。購入履歴や嗜好データを活用すれば、それぞれに合った価格提案が可能になります。

リピーターには特別割引を、初観戦のファンにはお試し価格を提示するなど、柔軟な対応がファンロイヤルティの向上につながります。

リアルタイムでの柔軟な価格調整が可能になる

4つ目は、リアルタイムでの対応力です。試合当日に急な雨予報が出たり、主力選手がベンチ外になったりと、予期せぬ事態は起こりえます。こうした状況にもリアルタイムで価格を調整できるのが、ダイナミックプライシングの強みです。

楽天イーグルスでは、AIが15分ごとに価格を自動変更しています。ファン側もお得なタイミングを見計らえるため、双方にメリットがあります。

ダイナミックプライシング導入に必要なシステム

ダイナミックプライシングを実現するには、専用のシステム基盤が必要です。手作業での価格調整は現実的ではありません。

  • 価格最適化ソフトウェア
  • データ分析ツール
  • 導入コストの考え方
  • 信頼できるベンダーの選定基準

価格最適化ソフトウェア

ダイナミックプライシングを導入するためには、需要予測と価格調整を行うソフトウェアが必要です。このソフトウェアは、過去のデータを分析し、将来の需要を予測する機能を持っています。

また、需要と供給のバランスを考慮して、最適な価格を算出する機能もあります。楽天イーグルスのように、AIを活用したソフトウェアを導入することで、15分ごとにリアルタイムで価格を調整することが可能です。これにより、手作業では不可能な高度な価格設定が実現します。

データ分析ツール

ダイナミックプライシングを導入するためには、データ収集と分析を支えるツールが不可欠です。データ収集ツールは、試合のチケット販売状況や観客の行動データを収集する役割を果たします。

収集したデータを基に、需要の傾向や価格設定の効果を評価します。巨人戦で値上げした際の収益効果や、消化試合で値下げした際の動員数変化などを分析し、感覚ではなくデータに基づく意思決定を行います。

導入コストの考え方

ダイナミックプライシングシステムの導入には、一定のコストがかかります。導入コストとしては、ソフトウェアの購入費用やデータ収集ツールの設置費用、システムの運用・保守費用が含まれます。

しかし、適切に導入すれば高い投資対効果を得られます。実際、収益増加分でシステム導入コストを早期に回収できた球団もあります。初期投資を躊躇するよりも、導入しないことによる機会損失を考慮すべきです。

信頼できるベンダーの選定基準

ベンダー選びで見るべきは、①実績、②機能性、③サポート体制の3点です。スポーツ業界での導入実績があるか、リアルタイム価格変更に対応しているか、トラブル時に迅速に対応してもらえるかを確認しましょう。

可能であれば、実際に導入している球団の担当者に話を聞くのがベストでしょう。カタログスペックだけでは見えない運用上の課題や、ベンダーの対応力が分かります。

ダイナミックプライシング導入時の注意点

ダイナミックプライシングは万能ではありません。導入にあたっては、法規制への対応やファンからの信頼維持など、慎重に検討すべき点があります。

  • 価格差別に関する法的リスク
  • 消費者保護法に基づく透明性の確保
  • 倫理的に配慮すべき価格設定の基準
  • ファンからの信頼維持

価格差別に関する法的リスク

ファンから、なぜ同じ試合なのに価格が違うのかと問われたとき、明確に答えられる準備が必要です。公正取引委員会は価格差別に関する規制を行っており、不当な価格設定は法的リスクにつながります。

ポイントは、需要に応じた変動価格であると明示すること。特定の個人やグループを狙い撃ちにした価格設定ではなく、市場原理に基づく変動であることを説明できれば、法的リスクは大幅に軽減されます。

消費者保護法に基づく透明性の確保

消費者保護の観点から、価格変動の仕組みは事前に開示する必要があります。ダイナミックプライシング対象であること、需要に応じて価格が変動することを、購入前に明示しましょう。

ソフトバンクホークスや楽天イーグルスは、公式サイトやSNSで価格設定の仕組みを丁寧に説明しています。なぜ価格が変わるのかを先回りして伝えることで、ファンからのクレームを未然に防げます。

倫理的に配慮すべき価格設定の基準

人気試合だからといって、いくらでも値上げしていいわけではありません。ファンがさすがに高すぎると感じる価格には、目に見えない上限があります。

長年応援してくれている熱心なファンほど、価格設定には敏感です。短期的な収益より、ファンとの信頼関係を優先する姿勢が、長期的なチーム経営には欠かせません。

ファンからの信頼維持

ダイナミックプライシングへの批判で多いのは、球団がお金儲けに走っているという印象です。これを払拭するには、増収分の使い道を見せることが効果的です。

増収分を選手獲得や設備投資に充て、その成果をファンに伝えることで、価格変動への理解も得やすくなります。

まとめ

本記事では、野球業界におけるダイナミックプライシングの導入背景、国内プロ野球チームの具体的な事例、導入による効果、成功のポイント、必要なシステム、法規制と倫理的配慮、効果的な運用方法について詳しく解説しました。

すでに多くのプロ野球チームがダイナミックプライシングを導入し、成果を上げています。導入によって得られる主な効果は以下の通りです。

  • 人気試合での収益最大化と不人気試合での集客改善
  • 空席の有効活用によるグッズ・飲食売上の底上げ
  • ファン一人ひとりに合った価格提案でロイヤルティ向上
  • 天候や選手の出場状況など、当日の変化にも即座に対応

導入を検討する際は、まず自チームの課題を明確にし、段階的に始めることをおすすめします。需要予測の精度向上、適切なアルゴリズムの選定、そしてファンへの丁寧な説明。この3点を押さえれば、収益向上とファン満足度の両立は十分に実現可能です。

導入を成功させるには、適切なシステム選定と専門家の支援が欠かせません。チケミーは、ダイナミックプライシングを含むチケット販売システムの構築・導入支援を専門としており、多くのプロ野球チームやイベント主催者から信頼を得ています。豊富な導入実績に基づく、カスタマイズされたソリューション提供が強みです。ダイナミックプライシング導入に関心がある方は、ぜひ「チケミー」にお問い合わせください。