ミュージシャンであるベンジャミン・ショイヤーの人生の実話を描いたミュージカル『ライオン』を日英Wキャストで12月に上演。

脚本・作曲・作詞を務めるベンジャミン・ショイヤーは同作でニューヨーク・ドラマ・デスク・アワード最優秀ソロパフォーマンス賞/ロンドン・オフウエストエンドの最優秀ニューミュージカル賞を受賞。世界の演劇シーンで注目されているアーティストである。

英国公演、USツアーも含めた上演回数は500回以上にのぼり、今回は日本初公演。

日英Wキャストで、来日版の主演を務めるのは、マックス・アレクサンダー・テイラー。

日本版は現在注目の実力派俳優、成河が主演を務める。

今回、日本版主演の成河に今作品についてインタビューを実施。

Story

はじまりの場所は、ニューヨーク。物語は、10歳のベンが家族の話をするところから始まる。数学者の父親と、数学嫌いの彼を繋いでいたのは、一緒にギターを弾く時間。

2人の絆は音楽だった。しかし、彼が14歳の時に起きたある出来事をきっかけに、彼と父親の関係は大きく変わり始める。イギリスの男子校での寮生活、グランドセントラル駅で出会った彼女との恋、母親や弟たちとの繋がり

移ろいゆく時間のなかで、いつも彼の近くにあったのは、音楽。

ベンはギターを片手に、波乱に満ちた人生の旅路に立ち向かう。

成河:

東京都出身。大学時代から演劇を始め、北区つかこうへい劇団などを経て舞台を中心に活動。2008年に第63回文化庁芸術祭演劇部門新人賞受賞。2011年に第18回読売演劇大賞優秀男優賞受賞。2022年に第57回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。

陣内 巴哉:

立命館アジア太平洋大学を卒業後、スタートアップ複数社の営業マネージャー・新規事業開発/人事を経て、2024年4月にチケミーに入社。COOとして従事。

小指の腱が切れる程練習を積んだギター演奏

陣内:上演まで残り2ヶ月となりましたが、現在力を入れていることはありますか?

成河:今回の作品は上演時間の75分間、5本のギターと俳優一人で勝負をするので、かなりの準備をしてきました。そして何よりも、俳優として上演に向けて約1年間も準備ができることなんて滅多にないんです。来日版の主演マックスの上演映像も100回以上観ましたね。

その中で、宮野つくりさんと一緒に自分で翻訳・訳詞もしながら、一文一文を理解してアウトプットしたものがあるので、積み上げてきたものをそのまま舞台で表現できたらと思っています。

特にギターは弾き語りだけではなく純粋な演奏もあるので、これからラストスパートをかけていきたいですね。プロの人でも難しいと感じるような、非常に難易度が高い楽曲なので、

かなりの速さと技巧が必要なんですよ。

僕は役者なので、演奏に関しては普段の舞台でやっていることとは全く異なる技術が必要になります。そういったテクニカルな所はこれから更に詰めていきたいなと思っています。

陣内:大変興味深いです。75分間の演奏の中で特に聴いていただきたいシーンはありますか?

成河:この作品はベンジャミン・ショイヤーの半生を描いています。その中で、オープニング曲とエンディング曲になっている「おもちゃのバンジョー(Cookie-tin Banjo)」ですね。今作品のオーディション曲でもあった楽曲です。

オープニングの「おもちゃのバンジョー(Cookie-tin Banjo)」を聴いた後に、75分間ベンの半生を経て、エンディングでもう1回聴くと、聴こえ方が変わってくるような構成になっています。

この曲はもう何百回と練習したので、練習をしすぎて小指の腱が切れたこともあります。

8時間ノンストップで練習したこともありましたね。

陣内:それは相当な練習量ですね…。

成河:ダンス・楽器・歌・スポーツは100回繰り返せば、ちょっとできるようになることってあるじゃないですか。一方で俳優は一番分かりにくく、可視化されるものじゃないので何を練習したら何ができるようになるっていうのが見えにくいんです。

なので、100回で駄目だったら、1000回繰り返せば良いとかそういったことに憧れていました。

俳優だと100回繰り返して出来たと思ったことが、一瞬で経験が浅い人に抜かれてしまったりするので、目に見える技術論みたいなことで積み上げられるっていう憧れに対して純粋に楽しむことができました。

演劇での翻訳は文化的な違いを理解することが大事

陣内:日英Wキャストで上演とのことですが、英語の歌詞や台詞を日本語に訳して伝えるということで工夫されたことってありますか?

成河:そうですね。前提として西洋圏と日本の演劇では捉え方が違うんですよね。

欧米での演劇は「今、ここで」スタートするという感覚が強いです。例えば、俳優がステージにふらっと出てきて「こんにちは」と言って始まったりする。一方で、日本の演劇は非日常的なものとして始まり、神聖な空間に入る感覚があります。そういった文化の違いが、翻訳作業において難しい点です。

陣内:その文化的な違いをどのように翻訳に落とし込んでいるのでしょうか?

成河:僕の考えとして、自分が喋る台詞は俳優自身が翻訳をするのが一番だと思っています。言葉そのものにこだわるのではなく、そのシーン自体を翻訳するというか、何を伝えたいのかを大切にするべきです。演劇は言葉だけでなく、空間や感情を伝えるものなので、その場で生まれる感覚を大切にしています。

陣内:大変私も勉強になりました。改めて本日は貴重な機会をいただき、ありがとうございました。

成河:こちらこそありがとうございました。

LIONのチケットはこちらから ▶︎ ▶︎