舞台『鬼神の影法師』-陰陽寮篇-が、2025年10月16日(木)に東京・新宿村LIVEにて開幕する。『鬼神の影法師』シリーズは、明治時代に陰陽寮が廃止されたために存在意義を失いかけた陰陽師と式神たちが織りなすドラマを描く、オリジナルアクションファンタジー。2023年に1作目が上演されて以来、着実にファンを増やしながら公演を重ね、今回でシリーズ4作目となり新章へ突入する。陰陽寮篇では、陰陽寮が廃止される以前の知られざる過去にスポットを当てて物語が描かれるという。

開幕まで1ヶ月を切った9月某日、本シリーズでW主演として共に作品の中核を担ってきた砂川脩弥(千家士門役)と谷水力(津守玲志役)にインタビューを実施。二人の何気ないやり取りから、彼らが戦友として確かな信頼関係を築いていることが伝わってきた。

目次
  1. 『鬼神の影法師』シリーズが愛される理由
  2. 「若い頃の士門をどう表現するか、試行錯誤中です」(砂川)
  3. 鬼神シリーズ名物“呪文”の覚え方
  4. 「今までよりもっと俯瞰的に、作品全体を見ることができたら」(谷水)

『鬼神の影法師』シリーズが愛される理由

ーー2023年に始まった『鬼神の影法師』シリーズは今回で4作目を迎えます。これほど短期間で続けて新作が出るほど作品が愛されているのは、なぜだと思いますか?

谷水:まず、エンタメとしてすごく面白いと思います。殺陣があったり、こだわりの衣装があったり、キャラクターがすごく立っていたり。明治時代に入って陰陽寮が廃止されたという物語の背景もあるので、たくさんのドラマが生まれるんですよね。演じている側の感覚としてあるのは、カンパニーの仲の良さがファンの方々にも伝わっているんじゃないかということ。ファンのみなさんが、鬼神カンパニーの空気感を好きでいてくれている気がするんです。

砂川:確かに、ファンの方も僕らと一緒に鬼神シリーズをホームだと感じてくれているような感覚はありますね。僕も新しい現場のあとに鬼神カンパニーに来ると、「帰ってきた〜!」と感じるんです。脚本の木村(純子)さんの鬼神シリーズへの愛もすごい! 2年で4本の新作を書いてくださっているんですよ。シリーズを重ねてくると、つい僕らもいろんな妄想をしちゃうんです。

谷水:それこそ「陰陽寮篇もできるね」って、昔話していたんだよね。津守家の話も面白そうだし、十二天将にフォーカスしても面白そうだし。

砂川:そういう話が出る度に「じゃあ誰がラスボスなんだろう?」って考えちゃう。いつかオリンポスの神々とか出てきそう(笑)。

谷水:ジャンル飛び越えてそっち?(笑)

砂川:その頃には、僕は安倍晴明役くらいになっているかも。妄想は止まりません(笑)。

ーー1作目から2年経ちましたが、何か変化は感じますか?

砂川:僕自身、実は最初はなかなかついていけなかったんです。変に気を張っていましたし、ずっと緊張している状態が続いていました。でも今は2年一緒にやってきたメンツもいるので、当時に比べてすごくリラックスできているなあと感じます。(谷水)力 に関して言うと、最初から全く変わらないですね(笑)。

谷水:うん、全然変わっていないかも。鬼神カンパニーは最初からとてもいい雰囲気だったので、作品の回を追う毎にホームへ帰ってきた感覚になります。今回は新キャストの方も加わっているので、このいい空気感がみんなに広がっていったらいいなあと思います。

ーー鬼神カンパニーならではの空気感というのはどんなものですか?

砂川:他に類を見ない仲の良さです!

谷水:本当に。役者同士はもちろん、演出の樋口(夢祈)さんや脚本の木村さんをはじめとするスタッフさんたちとの関係性も良いんです。ものすごく長い期間一緒にやってきたような空気感ができているので、2年という月日は短く感じます。

砂川:元々のメンバーの仲が良いからこそ、新しく入ってきた子たちが居づらくならないように、できるだけ話しかけるようにしています。もちろんただの仲良しこよしではダメなんですけど、みんなが気持ちよく稽古場に来れるような座組にしたいですね。

「若い頃の士門をどう表現するか、試行錯誤中です」(砂川)

ーーシリーズ4作目にして、これまで明かされなかった過去の物語が描かれます。新作の台本を読んでどう感じましたか?

砂川:とても細かく丁寧に描いてくださっているなと感じました。例えば、過去作のセリフで語られていたエピソードの中で、きっとお客様が見たかったであろうものがピックアップされているんです。ただ、過去の物語なので人との関係性がこれまでと変わるところが難しいですね。今回は士門のキャラクター性も変化させられたらいいなと思っています。

谷水:今までは、公演を重ねながら僕らが作り上げてきたキャラクターを踏まえて、当て書きのように台本に反映させてくださっていた部分があったんです。1作目から3作目にかけてキャラクター同士の関係性がいい感じに深まってきたのですが、今回は4作目にしてまっさらな過去に戻ります。士門と玲志もお互いのことを全く知らない時代の話なので、どうやって演じようか模索中です。

ーー具体的にどういうところに難しさを感じますか?

砂川:演じていると、どうしてもこれまでの癖が出ちゃうんですよね。例えば、相手のセリフを聞いてるときについ手を帯に持って行っちゃったり、身体を斜めに傾けちゃったり。これまでの士門はまっすぐ立っていられないようなだらけたキャラだったのですが、今回はそこへ逃げられない苦しさがあります(笑)。陰陽寮篇は高貴な学校が舞台なので、もっとピシッと立っていなきゃいけないんだろうなあって。樋口さんからも「30歳の士門になっています」とよく指摘されます(笑)。若い頃の士門をどう表現するか、試行錯誤中です。

谷水:そういう意味では僕も一緒ですね。僕の場合、1作目の玲志はかなり強さを意識して演じていたんです。それが2作目、3作目と回を重ねる毎に、周りとの関係性を築くことによってキャラクターとしては丸くなってきていて。今回はそれ以前の時代に戻るので、若い玲志の想いの強さや尖った部分を前面に出したほうがいいのかなあと、稽古場で探っているところですね。

砂川:逆にあげようか?

谷水:何を?

砂川:士門のダラダラを。

谷水:いや〜、玲志はダラダラするようなキャラじゃないでしょう(笑)。

鬼神シリーズ名物“呪文”の覚え方

ーー他の作品と比べて、鬼神シリーズならではの苦労はありますか?

谷水:それはもう⋯⋯ねえ?

砂川:せーのっ。

砂川&谷水:呪文!

ーー(笑)。陰陽師役の方々が苦労するというアレですね。やはり覚えるのが大変なんですか?

谷水:そうですね。普通のセリフなら会話の流れや感情の流れがあるので、暗記というよりも理解しながら覚えていくんです。だからもし舞台上でセリフが飛んだとしても、その流れや感情が入っていれば繋げていくことができます。でも、呪文に関しては飛んだら終わり。もう引き返せない(笑)。

ーーちなみに、舞台上で呪文が飛んだ経験はありますか?

谷水:まだないですね。

砂川:僕もないかなあ。

谷水:呪文は口で覚えちゃうんですよ。セリフと違ってリズムを掴んで覚えていくので、最終的には勝手に口が動いて言える状態になるんです。

砂川:本番のときは一番頭がクリアで周りが見える状態になっているので、何も考えずに言えちゃいますね。

谷水:その段階に行き着くまでが戦いです!

ーー呪文はどうやって覚えるんですか?

砂川:深夜に外に出て歩きながら、ぶつぶつ言ってます。

谷水:僕は稽古の行き帰りとかに、歩きながらぶつぶつと。

砂川:もともと呪文以外のセリフに関しても僕はそうやって覚えているんです。でも、呪文に関してはすれ違った人にとっては怖いかも(笑)。昼間は人が多いからどうしても夜になっちゃうんですよ。身体で覚えるためには声に出さなきゃいけないですし。印もそれぞれオリジナルなので、発想も大事ですね。どうやったらかっこよく呪文を唱えられるかを考えています。

ーー印は振り付けではなく、ご自身で考えているんですか?

谷水:そうなんです。実際にある呪文は印が元々決まっているんですけど、オリジナルの呪文は印もオリジナルで、俳優自身が考えているんです。

砂川:呪文が長ければ長いほど、どんな印にするか考えるのはしんどくなっていきます(笑)。

谷水:1作目、2作目、3作目とやってきたので、正直もう手数がなくて⋯⋯頑張ります!(笑)

「今までよりもっと俯瞰的に、作品全体を見ることができたら」(谷水)

ーーここまでお話を伺ってきましたが、見どころはやはり呪文のシーンでしょうか?

砂川:見どころと言ってしまうと、みんな注目しちゃうからなあ(笑)。僕に関しては、今回初めて衣装が変わるのでそこに注目してほしいですね。陰陽寮の学生なのでみんな似ているんですが、ちょっとずつ違う部分があるんですよ。

谷水:何だかちょっと羨ましいなあ。みんな陰陽寮の学生なのに、僕はひとりで別のところにいるからハブられている気分(笑)。

砂川:それは設定上しょうがないじゃん(笑)。他の見どころは殺陣ですね。個人的にですが、今回から殺陣がすごくやりやすくなったんです。

谷水:そっか。士門は靴が変わったんだよね。

砂川:そう、今まではずっと僕だけ下駄を履いていたんですが、今回から地下足袋になってすごく動きやすくて! ちなみに下駄を履くのは僕がやりたくてやっていたことなので、スタッフさんは悪くないですからね。1作目で下駄を履いたら、“下駄の音がしたら士門の登場”みたいなキャラクターのアイデンティティになってしまって。それで引くに引けなくなっちゃったという背景もあります(笑)。地下足袋は本当に動きやすさが全然違うので、今回の殺陣は今までの1.5倍速くらいで動けるんじゃないかなあ。

谷水:言ったな〜?

砂川:あ、じゃあやっぱり1.2倍速で!

谷水:「1.5」って書いてくださいね(笑)。

ーー承知しました(笑)。谷水さんが演じる玲志の見どころはいかがですか?

谷水:僕の衣装は大きくは変わっていないので⋯⋯うーん⋯⋯呪文です!

砂川:おお〜(笑)。

谷水:今回は新しい呪文もありますし、別の人が過去に唱えていた呪文を唱えるシーンもあるので、そういったところも含めて。実はまだ僕らも物語の結末までは知らないんですよ。なので、最後に向かってこれまでのシリーズとどう繋がっていくのかという部分も個人的に楽しみにしているところです。あと、今回は初めて歌唱シーンもあります。鬼神はとにかくオープニングが毎回テンション上がるくらいかっこいいので、音楽も含めて楽しんでもらえたら嬉しいです。

ーー本作では砂川さんは初の単独主演、谷水さんは物語の根幹を担う重要な存在として出演されるということで、これまでのシリーズと立場が変わります。どんな気持ちで作品に臨んでいらっしゃいますか?

谷水:役の立場が変わったことで、自分自身の居方を大きく変えるつもりはありません。ただ、今までよりもっと俯瞰的に、作品全体を見ることができたらいいなという願望はあります。

砂川:正直なところ、もし力がこのカンパニーにいなかったら何か違っていたかもしれません。でも力がいてくれるので、気持ち的には変わらずに臨めそうです。強いて言えば、カーテンコールでの挨拶がちょっと心配ですが(笑)。

谷水:そういえば今まではW主演だったので、みんなでご飯に行くときは食事代を折半していたんです。でも今回はきっと僕の負担が減るんだろうなあと期待しています(笑)。

砂川:うわ〜給料がマイナスになっちゃうよ(笑)。

谷水:というのは冗談で(笑)。今思い返すと、1作目の頃はお互いにどこか硬い部分があったように思います。2年という月日をかけて鬼神シリーズへ出演してきたことで、今はその硬さも完全に解けました。二人ともいい意味で気負いせず、一緒に作品に挑んでいけるんじゃないかなと思います。

取材・文・撮影=松村蘭(らんねえ)

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