2025年10月17日(金)〜26日(日)、東京・すみだパークシアター倉にて舞台「放課後に星はみえるか」が上演される。
「放課後に星はみえるか」は、imgが手がける学園ミステリー作品。これまで2017年、2022年、2025年2月に上演されてきた人気作で、今回は新たに“女子校”と“共学校”という異なる舞台設定で描かれる。
さらに本公演では、チケミーを利用し公演を支援できる「支援チケット」や公演のスポンサーになれる「メインスポンサーチケット」「一公演スポンサーチケット」などが発売されており、観劇前後まで楽しめるコンテンツが用意されている点も特徴だ。
そんな「放課後に星はみえるか」を上演するimgの主宰である谷口航季さんにインタビューを実施。団体を立ち上げたきっかけや作品づくりのモットー、演劇業界での新しい取り組み、学生層への思い、そして今後の展望について語ってもらった。
「imgの設立・運営と作品づくり-」
──本日はよろしくお願いします。まずはimgを立ち上げたきっかけや原点についてお聞かせいただけますか。
谷口:もともと台本書いたりとかお芝居したりっていうのは、保育園ぐらいかな。子どもの頃から人前に立つのが好きで、お遊戯会などでも積極的に目立とうとするタイプでした。(笑)中学生の頃は演劇部がなかったので、友人と図書室でシナリオを考えたり、高校では映画研究部で監督・脚本・編集・出演まで手掛けていました。大学に入って初めて小劇場の演劇を観て「自分自身で物語を届ける場所・グループを作りたい」と思ったのが原点ですね。
──大学から本格的に演劇に関わるようになったんですね。
谷口:きっかけは大きく2つあって。ひとつは、1年生の時の夏休みに当時の教授が演出を手がける舞台でスタッフをやったことです。そこからその舞台のプロデューサーさんの関わる公演に参加して、翌年には自分も俳優として舞台に出始めました。
もうひとつは、俳優を目指していた同級生たちが演劇サークルを始めて、「一緒にやろうぜ」という流れで関わるようになったことです。サークルでは、僕はどちらかというと作・演出のほうに回っていて。その時にまあいい格好つけたかったんで。(img)という屋号をつけたという。(笑)
だから設立に関しては、「img立ち上げます!」という感じではないんです。
大学卒業後も創作活動や舞台出演を続けていて、2016年から本格的にimgでの公演を打つようになりました。imgは今でも基本的には自分一人で運営しています。

──立ち上げ当初にぶつかった壁や苦労はありましたか。
谷口:多分、苦労を苦労と思う以前のレベルだったんだと思うんですよね。当時は「お金をちゃんと作ろう」とかそういう段階じゃなくて。
今なら「このくらいの予算で、このくらいの期間で」っていうのがなんとなく経験でわかるんですけど、当時は予算の組み方もざっくりしていて。普通はどれくらいの予算がかかるのか考えてからチケット代とか考えるじゃないですか。でもそういう勉強もしていなかったし、何も知らない手探りの状況だったので。コロナ前くらいまでは、作演しながら自分も出演者として出るっていうのもあったので、そこは一番大変でした。今では絶対に無理です。
──いろんな苦労があった中で、今は「長く続く舞台や朗読劇」を目指して活動されていますよね。
谷口:長く続けていこうと思ったのは今年ですね。きっかけとしては昨年、中学1年生の女の子が初めてimgの舞台公演を観に来てくれて、初めての観劇だったんですけど、結果的にその作品を4回も観てくれて。応援しているキャストさんが出ているというきっかけだったと思うんですけど、登場人物・キャストのこと全員を好きになってくれて作品そのものを楽しんでくれて。家や学校でも作品の話をしていると聞いて、「物語や演劇って人の人生に彩りを与えられるんだ」と実感しました。それから「学生に物語を届けたい」と考えるようになりましたね。
いい作品を届けて「自分も作りたい」「舞台に立ちたい」と夢を見つけてくれる学生が生まれるならその未来のために何かしたいなと。目下の目標は、学校の体育館などで公演を行うことです。
そのためには、いい作品を作り続けること、たくさんのお客様に届け続けることが大事であると思います。そうしていれば、「うちでやりませんか?」と言ってくれる学校と出会えると思っています。だから、今はそういった具体的な目標を持って公演を打ち続けるという感じになっております。
コロナ明けの頃は、創作過程というか、VIP席を設けたり、さまざまな試みを重ねながら、興行と向き合い、どうしたら一番いい形で作品を作れるかなって考えながらも、根本的などうして演劇をするんだろう?という軸の部分はまだ決まってなかったんですよね。でも、「学校公演を目指す」っていう軸ができてからは、自分の中で「どうして演劇をやり続けるのか」という問いに迷いなく答えを持って進められているかなと思います。

──作品づくりではどんなことを大切にしていますか。
谷口:いい意味で作品の作り方はあまり変わっていなくて、自分が届けたいものを作ろうっというのが一番です。
ジャンルをこうしたいとか、歌や踊りを入れたいとかはあまり考えてなくて、やっぱり自分がこの作品で何を描きたいかという作品の軸がないと、物語は書かないですね。そういう意味で一作品一作品を大事にしています。
「放課後に星はみえるか」は初期作品なので、当時は「ミステリーを作りたい」という気持ちもありました。でも再演の前にある女優さんの実体験の話を聞いて、「あ、これを作品にこめられるな」と思ったんです。それがこの作品における軸になっています。
だいたいどの作品にも共通しているのは、登場人物が自分は少数派だと思っているということです。多数派か少数派かで言えば、自分は少数派の方に向けて書くことを意識してます。自分自身が少数派の人間だと思うので。見に来る人が「楽しい!かっこいい!」といったようなエンタメ作品ではなく、自分の実体験も絡めながら、嫌だと思ったこと、苦しんだこと、悩んだこと、そういう気持ちを作品に込めるようにしています。だから登場人物たちは少なからず僕自身の分身でもあります。
でも意外とそういったテーマも、多くの人が心のどこかで感じていることだったりするんです。自分も同じように悩んだ、悩んでいるといったお声はとても多いです。完璧な生徒会長に見えても、実際は鎧を着ているような子だったり、高学歴だけど面接に落ち続けて、自分自身を見失っている子だったり。日常を描きながら登場人物たちの心の奥を描くようにしています。
──メジャーを目指すのではなく、マイナーな立場に寄り添うということですね。
谷口:僕の好きな脚本家さんの言葉を借りるなら、元気な人が10になる作品ではなく、マイナスの人がゼロになる作品を目指しています。ほんの1ミリでも成長していればいい。明日はこうしてみようかなとかそのくらいでいい。大団円や大解決を描くよりも、昨日より少し前に進んでいるくらいで十分だと思っています。
「本公演の見どころは」
<去年の公演画像>


──「放課後に星はみえるか」は再演を重ねていますが、作品づくりに変化はありますか?
谷口:初演時と回を重ねる中で、作り方に変化が出てきましたね。そもそもミステリーは非日常のエンタメです。今回だったら誰かが飛び降りる、それがなぜなのかを追うという形式で、非日常の出来事が中心でした。
でも今は、トリックや事件そのものよりも、人間の感情や関係性を大事にしています。登場人物がどう感じて、どう行動して、なぜそうなったのか。そこを掘り下げることが、作品の中心です。台本を書く前に、登場人物の過去や家族構成、関係性、好きなものまで細かく設定した履歴書のようなものを書いています。初演は謎解き中心で書き方や文体も全然違いましたが、再演以降はそういった過程を経て「人間ドラマ」を描くようになりました。
他のimg作品は日常の小さな出来事や葛藤を丁寧に描いているので、中学生でも共感してくれるのかなと。進路に悩んで夢を押し殺す子の気持ちや、誰にも言えない葛藤。そういう小さな悩みを描く方が、リアルで伝わるなと感じています。逆に放課後に星はみえるかは少しエンタメに近いからこそのとっかかりの良さは魅力の一つです。
──台本における文体のこだわりはありますか?
谷口:僕の場合、役者になったつもりで、「この状況で太刀川陽愛なら何を言うか」を考えます。履歴書や過去のエピソードがあるので、自然とその人らしい言葉が出てくるんです。だから登場人物の性格や背景をしっかり作り込むことが、脚本を書く上で欠かせないですね。
その中で、セリフを精査する中で、予想できる言葉ばかりじゃ面白くない。だから「え、そんなこと言うんだ」と見る人の予想を裏切るセリフを作ることを意識しています。
──公演以外の魅力、特典やチケット運営についてはいかがですか?
例えばクラウドファンディングのリターンを元にした特典やVIP席、本読みの配信など、演劇ではまだあまりやられていないことを取り入れています。特典として、キャストの本読み動画を1000円の支援チケットの特典で提供するなど、普段見られない付加価値を作る工夫を行っています。
きっかけのひとつは、知り合いが『えんとつ町のプペル』の初演にスタッフとして関わっていて、そのときにいろんな仕組みを知ったことです。そこから関連する記事や動画、本などを読み始めて「こういう形でお金を生み出していくのか」と影響を受けました。
ちょうどコロナ禍の2年間、僕らは劇場公演を止めていたので、コロナ禍やコロナ後は「クラウドファンディング」のスタイルを参考にしたんです。クラファンはリターンの設定が面白くて、自分では思いつかないアイデアがたくさんある。その中で「本読みを配信する」というのを見て、「これはできるな」と思ったんです。顔合わせのときにやる本読みを録画して、それをリターンとして届ける。コストはほとんどかからないし、むしろ稽古の“最初の状態”を知ってもらえるのは観客にとっても価値があると思いました。
内容を知らない人は、さわりでも全部でも本編を知ることができる。本番を観た人は振り返って「え、最初はこんな感じだったの?」と驚く。でもそれは1か月の稽古の積み重ねやチームの成長を実感してもらうきっかけになると思っています。演劇って普通は完成品しか出さないけれど、今の時代はバックストーリーを見せること自体がエンタメになると思っています。むしろ創作過程を見てもらう方が、座組のストーリーを届けられてプラスだと感じてます。
また、ビジュアルやチケット自体もデザインやコレクション性にこだわっています。広告としてのビジュアルの力を意識していて、イラストや撮影写真にもこだわっています。
——スポンサー制度についても工夫されていますよね。
そうですね。他の業界では当たり前の仕組みを演劇に持ち込んでいる感覚です。例えばテレビだってスポンサーのおかげで無料で見られるわけで。スポーツにもVIP席はあるし、音楽でも普通に導入されている。でも演劇で「スポンサーチケット」や「VIP席」を作ると、なぜか「お金儲けだ」と見られがちになる。というのが難しいところです。
実際、僕らがやっていることはごくシンプルです。スポンサーを募って、公演中にその方のクレジットをアナウンスしたり、開演前の前説で告知をしたり。imgで開催している「イメパ」というイベントではキャストさんによる告知時間を前説で作っていて、通常10秒の告知時間を、スポンサーが入ることで5秒ずつ延ばせて最大で30秒になる前説スポンサーチケットを昨年から販売してます。キャストは告知時間が伸び、バックも入り、お客さんは撮影可能時間が伸びてSNSで拡散もできる。スポンサーの方は名前を呼んで感謝を伝える。誰も損をしない仕組みを意識しています。でも、演劇界ではこういった仕組みはあまり広がっていません。以前朗読劇で、学生の招待チケットをギフトできるギフトチケットというものを発売して、何十人ものギフトをしてくれるお客様がいて、それを演劇業界の方に伝えたら驚かれました。やってみるとわかることに、あまりやれていないのが演劇界の大きな課題だと思っております。このギフトチケットという制度こそ、演劇界でもっと広がればいいとは思いますが、そうならない空気を内側にいるととても感じます。
チケットの価格設定も同じです。今回のメインスポンサーは30万円ですが、特典として全公演S席を3席確保している。計算するとすでに18万円分はチケット代として還元されていて、残りは応援料や宣伝効果と考えれば、決して高くはない。むしろ音楽やスポーツと比べれば控えめな額です。なのに「30万円のスポンサー枠」と聞くと「高い」と思われてしまう。他の業界の当たり前を実現することの壁が非常に高いと思っています。
imgとしては「他の業界で普通にやっていることを演劇にも取り入れる」という意識を常に持っています。それが結果的にimgの個性だったり強みになっていると思いますし、自分自身も「やったことがないからこそ、ワクワクする」というモットーのもと、積極的にまずはやってみています。まだまだ実績としては試行錯誤中ですが、なにごとも積極的にやってみて、失敗をするという成功を積み重ねていきたいです。
──ビジュアルデザインにもこだわりがありますよね。
はい。ビジュアル的にはシンプルで、かつ目を引くものを意識してます。今作のイラストは田中寛崇さんに依頼しており、ミステリー小説の表紙も手掛ける方なので、別のフィールドの人を取り入れる工夫もこういったところから必要なんだと思っています。もちろん、知り合い価格ではなく、きちんとしたギャランティをお支払いしています。
やはりビジュアルの美しさや目の引き方は作品の看板・広告だと思うので、公演以外のところでもお客様にワクワクしてもらえるような工夫をしています。



──公演内容のバリエーションについては?
今回は女子校版と共学版があります。初演は共学だったんですけど、再演時に女子校版に直したんです。imgの作品は女性登場人物の比率が高いというのもありますし、単純に男同士の会話ってあんまり面白くないなと思うからです。僕自身が男だから想像できちゃう部分が多いんですよね。逆に女性のやり取りは未知な部分が多くて、このキャラクターとこの関係性を組み合わせたら面白いなと感じられる。共学だとどうしても女子と男子の関係が恋愛フィルターを通して見えてしまうんですけど、それはあまり好きじゃなくて。
そこで女子校版にして、一人だけストーリーテラー的な役割で男性を入れる。そうすると、女子同士のちょっと嫌な部分や妬み、そして友情みたいなものをしっかり描ける。それが作品として魅力的になると思ったんです。
ただ、今回は単に女子校版を再演するだけじゃ面白くないなと思い。2月に朗読公演もやっているので、内容的にはほぼ同じものを舞台でやるのではなく、そこに新しい試みを加えたいと思いました。
そこで、あえて初演の共学バージョンも同時上演することにしました。自分が苦手だと思う要素をあえて入れてみよう、と。
たとえば、今まで女子同士で作っていた関係性を、相手を男子に変えたらどうなるのか。実際にやってみると、脚本の段階ですでにかなり違いが出ていて、人間関係の軸そのものが変わる部分もあるんですよね。男女の違いが物語にどう響くのか、そこが今回の面白さだと思っています。
観客の方からも「両方見たい」という声が多かったので、同じ台本でも男女が違うとこんなに変わるんだ、というのを見比べられる構成です。ダブルキャストとはまた違う楽しみ方を提案できるんじゃないかなと思っています。
──今後の目標や公演の方向性は?
まずは学校での公演実績を作って、そこから本公演でのギフトチケットやSNSや営業での認知を広げていく予定です。いち演劇団体で取り組むにはまだハードルがありますが、将来的には当たり前の手法として定着させたいと思っています。次世代の観客を育て、エンタメの未来を作っていくことが目標です。短期的な成果だけでなく、長期的な視点での投資として、持続可能な演劇の基盤を築いていきたいと思います。
──最後に今後の展望をお願いします。
谷口:まずは学校公演を実現させたいです。ありがたいことにすでに来年実施が可能かもしれないとお話を進めさせて頂いております。中高生にとっての「初めての観劇体験」が人生を彩るきっかけになるような舞台を届けたい。そのために、本公演では興行としても成立させながら、作品としてのクオリティを保って創作を続けていきたいと思っています。

チケット詳細
【img Act8】「放課後に星はみえるか」
日程:2025年10月17日(金)〜26日(日)
劇場:すみだパークシアター倉