大規模イベントの開催時に深刻化する宿泊施設不足。この課題を解決する新しい選択肢として「イベント民泊」が注目を集めています。自宅を活用して収入を得られる機会であり、地域活性化にも貢献できる制度です。
この記事では、イベント民泊の始め方から運営のポイント、注意すべき事項まで、具体的な事例を交えながら詳しく解説します。
関連:民泊とはどんな宿泊施設?種類や特徴、人気な設備・サービス、始め方など紹介!
イベント民泊とは?

オリンピックやワールドカップなどの大規模イベント開催時には、多くの観光客が集中することで宿泊施設が不足する事態が発生します。そこで注目されているのが、一時的に自宅を宿泊施設として提供できる「イベント民泊」という制度です。
ここでは、その具体的な仕組みと意義について詳しく見ていきましょう。
イベント開催時の宿泊施設不足を解消
従来の宿泊施設だけでは、大規模イベント時の宿泊需要に対応することが困難な状況に直面しています。国際的なスポーツ大会やコンサートなどでは、一時的に数万人規模の宿泊需要が発生することがあります。
このような状況に対応するため、イベント民泊では期間限定で一般住宅を宿泊施設として活用することにより、宿泊キャパシティの拡大を実現しています。たとえば、熊本市は2019年のラグビーワールドカップに向けて、宿泊施設不足の課題に対応するため、先進的なイベント民泊の取り組みを実施しました。
Airbnbと連携し、「熊本県イベントホームステイ・プロモーションキャンペーン」を展開しました2。実施期間は以下の3期間でした。
- 2019年9月27日~9月30日
- 2019年10月5日~10月7日
- 2019年10月12日~10月14日
実施エリアは熊本市を中心に、宇土市、宇城市、御船町、嘉島町、益城町、合志市、菊陽町などの近郊地域に及びました。
この取り組みは大きな成功を収め、宿泊施設提供数84件、宿泊者数188名(延べ237名)を達成し、国内のイベント民泊としては過去最大のホスト数を記録しました12。特筆すべき成果として、大会開催期間中の外国人観光客数が前年同期比233%増を記録したことが挙げられます4。
運営面では、パソナグループが運営事務局を設置し、ホストと宿泊者双方からの問い合わせに対応する体制を整えました。また、ホスト向けの開業支援セミナーの実施や、熊本おもてなしキットの提供など、きめ細かなサポートを行いました。
この取り組みは、単なる宿泊施設不足の解消だけでなく、地域住民と観光客の交流促進、周辺観光地への経済効果創出にも貢献し、多くのホストとゲストから「忘れられない思い出になった」という声が寄せられています。
地域の観光消費と交流を促進する仕組み
イベント民泊には、単なる宿泊施設の供給増加以上の効果があります。地域住民と観光客の直接的な交流機会を創出することで、地域の魅力発信や観光消費の促進につながります。
実際の運営事例では、地域住民がその土地ならではの観光スポットや飲食店を紹介することで、観光客の滞在満足度が向上しています。また、宿泊料収入が地域内で循環することにより、地域経済の活性化にも寄与しています。
このような取り組みにより、イベント民泊は一時的な宿泊需要への対応だけでなく、持続的な地域振興の手段としても注目を集めています。
イベント民泊の実施要件は?

イベント民泊の運営には、適切な手続きと厳格な条件の遵守が求められます。単なる一時的な宿泊場所の提供ではなく、安全性と地域との調和を重視した制度となっています。
以下では、具体的な実施要件について説明していきます。
自治体からの要請と承認が必須
イベント民泊を始めるには、まず自治体からの要請に基づく正式な承認を受ける必要があります。国際的なスポーツ大会や文化イベントなど、特定の大規模イベント開催時に限り、自治体が住宅宿泊事業法の特例として運営を許可します。
申請手続きでは、住居の図面や設備の状況、非常時の避難経路など、安全性に関する詳細な資料の提出が求められます。また、近隣住民への事前説明や同意取得など、地域との良好な関係を確保するための対応も必要になります。
2〜3日程度の短期間での運営
イベント民泊の運営期間は、イベントの開催に合わせて2〜3日程度の短期間に限定されます。オリンピックなどの大規模イベントでも、前後数日を含めた限定的な期間のみ運営が認められます。
具体的な運営可能期間は、イベントの規模や性質により自治体が個別に設定します。たとえば、3日間の音楽フェスティバルであれば、前日から最終日の翌日までの5日間程度が運営期間として認められます。
実際に居住する自宅での提供が原則
イベント民泊は、所有者が実際に居住している住宅での運営が原則となります。投資用物件や空き家などは、通常の住宅宿泊事業法に基づく民泊として申請する必要があります。
住宅の設備面では、消防法に基づく火災報知器の設置や、清潔な寝具の提供、適切な換気設備の確保など、宿泊者の安全と快適性を確保するための基準を満たす必要があります。また、宿泊者の生活音が近隣に影響を与えないよう、防音対策などの配慮も求められます。
イベント民泊を運営するメリットは何がある?

イベント民泊の運営は、一時的な宿泊場所の提供にとどまらず、多様な価値を生み出す取り組みです。個人の収入機会から地域全体の活性化まで、幅広い効果が期待できます。
それでは、具体的なメリットについて詳しく見ていきましょう。
追加の宿泊収入が得られる
イベント民泊の運営により、普段使用している住居を活用して追加の収入を得ることができます。大規模イベント時には宿泊需要が高まるため、通常の宿泊施設より高めの料金設定が可能になります。
たとえば、オリンピック開催時には1泊あたり1万5000円から2万円程度の料金設定が一般的です。3日間のイベント期間中に2名の宿泊者を受け入れた場合、9万円から12万円程度の収入が見込めます。
地域の観光消費拡大に貢献できる
イベント民泊の宿泊者は、地域内での飲食や買い物など、様々な消費活動を行います。宿泊施設が分散することで、従来は観光客が訪れなかった地域にも経済効果が波及します。
宿泊者1人あたりの平均消費額は、宿泊費を除いて1日約1万5000円に達します。この消費の多くは地域内の飲食店や小売店で発生するため、地域経済の活性化に直接的な効果をもたらします。
旅行者との文化交流が可能に
イベント民泊では、世界各国からの旅行者と直接交流する機会が生まれます。言語や文化の違いを超えた対話を通じて、国際感覚や異文化理解を深めることができます。
宿泊者との会話を通じて、自国の文化や伝統を紹介する機会も増えます。実際の運営者からは、「外国人旅行者に茶道を体験してもらい、日本文化への理解を深めてもらえた」といった声が寄せられています。
自治体からのサポートが受けられる
イベント民泊の運営者に対して、自治体から様々な支援が提供されます。運営ノウハウの提供や、多言語対応のサポート、トラブル発生時の相談窓口の設置など、安心して運営できる体制が整備されています。
具体的な支援内容として、運営者向けの研修会の開催や、消防設備の設置費用の補助、宿泊者とのコミュニケーションを支援する通訳アプリの提供などが実施されています。これにより、運営経験のない方でも適切な受け入れ態勢を整えることができます。
イベント民泊の宿泊者情報はどう管理する?

イベント民泊での宿泊者情報の管理は、安全な運営と防犯対策の要となります。正確な本人確認と適切な情報管理により、運営者と宿泊者の双方が安心して利用できる環境を整える必要があります。具体的な管理方法について、解説していきます。
宿泊者全員の本人確認が必須
イベント民泊では、宿泊する全員の本人確認を実施する必要があります。未成年者のみの宿泊や、申込者以外の第三者の宿泊は認められないため、厳格な本人確認が求められます。
確認書類として、日本国籍の方は運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなどの顔写真付き身分証明書が必要です。外国籍の方の場合は、パスポートに加えて在留カードの提示を求めます。
宿泊者情報は、氏名、住所、職業、宿泊日、連絡先など、法令で定められた項目を正確に記録します。緊急時の連絡先として、国内の知人の連絡先情報も併せて取得することで、不測の事態に備えることができます。
個人情報の適切な取り扱い方法
取得した宿泊者情報は、個人情報保護法に基づく適切な管理が必要です。記録した情報は、鍵付きの保管庫での保管や、パスワード保護されたデジタルデータとして保存するなど、セキュリティ対策を徹底します。
保管期間は宿泊日から3年間と定められており、期間経過後は適切な方法で確実に廃棄します。紙媒体の場合はシュレッダー処理を行い、デジタルデータは完全削除ソフトを使用して消去します。
また、取得した個人情報は宿泊者の同意なく第三者への提供を行うことはできません。ただし、警察からの照会や災害時の緊急連絡など、法令に基づく場合は例外として提供が認められます。
イベント民泊の料金設定はどうする?

イベント民泊の料金設定は、収益性と需要のバランスを考慮した重要な要素です。価格設定によって予約率や収益が大きく変動するため、地域の特性やイベントの性質に応じた適切な料金設定が求められます。
それでは、具体的な料金設定の方法について解説していきます。
地域の宿泊相場を考慮した設定
イベント民泊の基本料金は、周辺のホテルや旅館の相場を参考に設定します。通常の宿泊施設では、イベント開催時には通常期の1.5倍から2倍程度の料金設定となることが一般的です。
たとえば、地域の宿泊施設の通常料金が1泊1万円の場合、イベント期間中は1泊1万5000円から2万円程度の料金設定が妥当です。ただし、宿泊施設の設備やサービス内容に応じて、この金額から上下に調整する必要があります。
施設の立地条件も重要な考慮要素となります。イベント会場からの距離や公共交通機関へのアクセス、周辺の飲食店や商業施設の充実度などにより、基本料金を調整します。会場まで徒歩圏内の物件では、より高めの料金設定が可能です。
人数や期間による料金の調整
宿泊人数や連泊日数に応じて、柔軟な料金調整を行うことで予約率の向上を図ります。基本料金をベースに、追加料金や割引料金を設定することで、多様な宿泊ニーズに対応します。
宿泊人数による調整では、1名追加につき3000円から5000円程度の追加料金を設定します。ただし、居室の広さや設備の収容能力を考慮し、快適な宿泊環境を維持できる範囲内で受け入れ人数を決定します。
連泊の場合は、2泊目以降に10%から20%程度の割引を適用することで、長期滞在を促進します。イベントの前日から後日までの連泊予約を獲得することで、稼働率の向上と安定した収入確保が実現できます。
イベント民泊を運営する注意点は?

イベント民泊の運営には、宿泊者の受け入れだけでなく、地域との関係性や安全管理など、様々な側面での配慮が必要になります。円滑な運営のために、事前の準備と適切な対応が重要な鍵となります。具体的な注意点について、説明していきます。
近隣住民への事前説明と配慮が必須
イベント民泊の運営開始前には、近隣住民への丁寧な説明と理解を得ることが不可欠になります。運営期間や受け入れ人数、騒音対策などの具体的な取り組みについて、詳しく説明する機会を設けます。
事前説明会では、緊急時の連絡体制や対応方法についても共有します。特に深夜の騒音や生活ルールについては、具体的な対策を示すことで住民の不安解消につながります。実際の運営事例では、近隣住民の連絡先リストを作成し、24時間対応可能な体制を整えることで、スムーズな運営を実現しています。
損害保険加入で万が一に備える
イベント民泊特有のリスクに対応するため、適切な保険への加入が重要になります。火災や盗難、設備の破損など、予期せぬ事態に備えた補償内容を確認します。
標準的な補償内容として、施設賠償責任保険では1事故あたり1億円程度の補償が一般的です。宿泊者の怪我や持ち物の損壊など、様々なケースに対応できる総合保険への加入により、安心して運営に取り組むことができます。
ハウスルールの作成をする
快適な宿泊環境を維持するため、明確なハウスルールを設定します。禁煙・分煙のルール、共用施設の利用時間、廃棄物の分別方法など、具体的な生活ルールを明文化します。
ハウスルールは多言語で作成し、チェックイン時に宿泊者への説明を行います。特に重要な注意事項は、居室内の目立つ場所に掲示することで、ルールの徹底を図ります。また、緊急時の避難経路や消火器の設置場所なども、図解付きで分かりやすく説明することが有効です。
まとめ
イベント民泊は、大規模イベント時の宿泊需要に応える重要な役割を担っています。運営にあたっては、自治体への申請から宿泊者の管理、適切な料金設定まで、様々な要件を満たす必要があります。
一方で、追加収入の獲得や地域活性化への貢献、国際交流の機会創出など、多くのメリットがあります。近隣住民への配慮や保険加入、ハウスルールの整備といった準備を整えることで、安心して運営を始めることができます。地域の魅力向上と経済活性化に貢献する、新しい宿泊のかたちとして、今後さらなる広がりが期待されています。
参考: